
- 多焦点眼内レンズ
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横浜市60代男性 白内障手術症例#95 強度近視眼 (WELL Fusionシステム=右眼:プログレッシブ型多焦点レンズ:ミニウェル・プロクサ+左眼:ミニウェル・レディ)
最近,再びお問い合わせが増えてきましたので、久しぶりにMiniWELL Ready(ミニウェルレディ)/MiniWELL PROXA(ミニウェルプロクサ)の症例を掲載いたします。
患者様は2024年9月、勤務先の岡山県から多焦点眼内レンズによる白内障手術のご相談で初診されました。右眼優位な皮質混濁を主体とした白内障を認め、矯正視力は0.5-0.6に低下しておりました。左眼は矯正視力1.2を保っていたものの、同タイプの白内障によりコントラスト感度はかなり低下しているようであり、両眼の手術予約となりました。初診時の簡易的な角膜トポグラフィー検査では、多焦点レンズの使用は可能と考えられましたが、最終的な適応判断には、より精密な検査が必要である旨をお伝えしました。
2回目の受診時に回収した術前アンケート結果では、「眼鏡はかけたくない」と欄外に太字で記載があり、ご希望の優先度は近方>中間>遠方の順でした。また、より広範囲での精密な角膜形状解析でも不正乱視成分は低値であったため、まずは近方・中間を確実に確保できる3焦点レンズを第1候補として検討しました。しかし、ゴルフをされ、夜間運転機会もあるとのことで、ご本人からミニウェルレディとミニウェルプロクサのミックス&マッチである「WELL Fusion システム」による手術のご希望がありました。
当院は、これまでのミニウェルの使用実績が評価され、先行使用施設として5年前に国内初のWELL Fusionを行った施設です。WELL Fusionでは一般に、優位眼にミニウェル、非優位眼にプロクサを使用し、優位眼から先に手術を行うことが推奨されています。
一方、通常の白内障手術では、特別な理由がない限り、白内障が進行して視力が低下している眼から手術を行いますが、本症例では、優位眼が白内障の進行が比較的少ない左眼であったため、WELL Fusionの方針を優先し、左眼(優位眼)のミニウェルでの手術を先行するよう手術順を変更することとなりました。
次にレンズの注文(=度数決定)ですが、本レンズは海外からの輸入となるため、手術の約1ヵ月前までに発注する必要があります。両眼とも眼軸長26.5mmを超える長眼軸眼(強度近視眼)であり、さらに角膜形状ややフラットであったため度数ズレ(術後屈折誤差)の可能性も考慮し、左眼のミニウェルは2種類、右眼のプロクサも2種類の度数を準備して手術に臨むこととなりました。
まず優位眼の左眼の手術ですが、水晶体の軽度膨化があり、前嚢切開時に注意を要しましたが、核硬度は1.5程度と固くない白内障でしたので、水晶体摘出まではスムーズに終了しました。
続いてORAシステムでの術中波面収差測定ですが、ミニウェルはORAシステム内で最適化されていないため、ORAの推奨値をそのまま採用して度数決定を行うことはできません。そこで当院では標準化に用いるダミーレンズの値と、実測値の差から回帰式を作成し、その補正値を用いて度数を決定することで、屈折誤差をゼロに近づけるよう工夫しております。
今回は、下図のようにORAが推奨した+12.0Dのレンズではなく、-0.64Dを目標とした+12.5Dのレンズを選択し、レンズの長期安定性も考慮してカプセルテンションリング(CTR)も挿入して手術は問題なく終了しました。今回準備していたレンズは+12.0Dと+12.5Dでしたので、結果として近方寄りのレンズを使用したことになります。

左眼の手術翌日ですが、懸念された屈折誤差は認めず、遠方1.2p/近方1.2と、良好な遠近視力が得られました。術後1週間では遠方1.2~1.5/近方1.0(30㎝)と、通常のミニウェルのスペック以上に良好な近方視力が得られ、患者様にも大変満足していただけました。この時点で近方視力が十分確保できていたため、非優位眼はプロクサでなく通常のミニウェルでも良い可能性がある旨をお伝えしましたが、患者様は当初の希望どおりプロクサでの手術をご希望されました。
続いて、より白内障の進行した非優位眼の右眼の手術になりますが、片眼のみ進行した白内障でしたので、外傷などの要因も考慮して慎重に手術を行い、こちらもORAの測定値を参考に使用レンズ度数を決定しました。
当院では、5年前に国内で初めてプロクサを使用した当初から、「度数決定の定数(A定数)は通常のミニウェルと同一ではない可能性が高く、メーカー推奨のA定数のまま度数計算してしまうと屈折誤差につながり得る」旨を発信してきました。その後、症例の蓄積と最適化を進めることにより、この点は印象にとどまらず、数値としても明確になってきています。そして現在は当時と比べてメーカーの推奨値も変更されましたが、それでもなお度数選択においては、通常のミニウェルとは異なる工夫が必要です。
以上を踏まえ、こちらも準備した2枚のレンズから適切な度数を選択し、同様にCTRを併用して手術は問題なく終了しました。
術翌手術翌日の右眼の裸眼視力は、遠方0.8p/近方0.6とやや不良でしたが、術後3日目には遠方1.2/近方1.2と改善しました。術後10日目には遠方0.8p/近方1.5となり、患者様ご本人はあまり気にされていませんでしたが、遠方視力が不安定さがみられました。
その後も遠方視力は0.7~0.9の間で推移しておりましたが(下図視力表の赤点線枠)、経過観察の中で、軽度の残余乱視(0.75D)を矯正するだけで、遠方視力が1.5まで改善できる可能性が高いことが分かりました。乱視矯正は保険診療の対象外ですが、私自身、改善できる点は可能な限り改善しておきたいと考えてしまうタイプなので、裸眼視力改善の選択肢としてお伝えしたところ、患者様は角膜輪部減張切開(LRI)による乱視矯正手術を希望されました。
なお、0.75D程度の乱視であれば、通常のミニウェルでは視力低下の原因となることはほとんどない一方で、本症例ではミニウェルに比べプロクサの方が乱視の影響を受けやすい可能性も示唆されました。(当時は乱視用プロクサは未発売でしたが、現在は発売されています)。

上図のように、強主経線を中心として30度の切開を行えば、計算上は0.75Dの斜乱視が矯正できることになりますが、実臨床ではなかなか計算通りには行きません。そこでこちらもORAシステムによるリアルタイム値を参考にしながら、過矯正にならない範囲で、乱視が可能な限りゼロに近づくよう、切開を追加しては測定するという手順を繰り返す、ORA system-guided LRIを行いました。
その結果、LRI翌日から裸眼視力は遠方1.2と改善し、術後1ヵ月には乱視ゼロとなりました。初回の白内障手術から9か月経過してしまいましたが、最終的に遠方1.5/近方1.2と良好な視力が得られ、患者様も大変満足していただけました(下図視力表赤枠)。
後日談になりますが、右眼の経過が非常に良好であったこともあり、患者様から、乱視が0.5D程度しかない左眼の乱視も矯正したいとのご希望がありました。左眼については必要性はほとんどない旨をお伝えしましたが、ご本人の強い希望があり、最終的にORA guided-LRIを施行しました。結果として左眼も乱視ゼロとなり、自覚的にも改善を実感していただけました。

ミニウェルは、天然の水晶体に近い見え方が得られるため、若年者の片眼白内障などに適しており、適切に適応を判断していれば術後の不満例は極めて少なく、術者としても扱いやすい高機能なプログレッシブ型(累進型)の多焦点レンズです。
一方で以前にもお伝えしているとおり、光学特性上、軽微な後嚢混濁(後発白内障)の影響を受けやすいため、レーザーによる後嚢切開(後発白内障治療)がほぼ必須となります。術中に原因となる水晶体上皮細胞をスクレイピングで除去しても、この傾向は変わりません。このミニウェル特有と考えられる後納混濁による視力障害について、メーカー・学会・他医療機関を含め、どこにもアナウンスされていない点は不思議ですが、当院では念のため術前にご説明しております。とはいえ、安全な治療法は確立しているため、その点をレンズ選択の可否を左右する要因として、過度に重視する必要はないと考えます。なお、この方は術後1年以上経過しておりますが、現時点ではミニウェル特有と感がらえる後発白内障による視力障碍は認めず、良好な視力を維持しています。
次にミニウェルプロクサですが、屈折誤差を最小限に抑え、目標屈折度数を的確に合わせられれば、遠方視力を犠牲にすることなく、最も近方まで見える多焦点レンズの1つです。一方で、度数選択・使用方法に独特の特徴があり、より正確性を必要をするため、ミニウェルに比べると扱いが難しい点がありますが、条件によってはミニウェルよりも遠方も近方も見えるように設定することも可能です。ただし、夜間のハローといった異常光視現象は、通常のミニウェルと比べる出やすい傾向があるため、近見30cmまでしっかり見たい方や、ミニウェルでは満足できない方に適したレンズだと考えます。
今回は3年ぶりのミニウェル症例の掲載となってしまいましたが、その間も当院ではミニウェルおよびプロクサを継続して使用しております。当院がミニウェルの使用を開始した8年前に比べ、現在は取り扱う医療機関も格段に増え、SNSの普及も相まって、患者様からのお問合せに加え、他院から目標屈折度設定についてご相談をいただく機会も増えてきており、患者様がより良い医療にアクセスできる環境が広がっていることを、大変嬉しく思います。
一方で、いくら高機能のレンズとは言え、白内障による視力障害がほどんどない状態での手術、いわゆるRefractive Lens Exchange(RLE)については、当院は一貫して推奨しておりません。もちろん、強度近視や老眼による調節力が低下・消失した後の方ではメリットが大きい場合もあります。しかし、当院に術後トラブルで受診される方の中には、手術によるデメリット(劣る点)についての理解が十分でなかったことが一因となっているケースも少なくありませんので、何卒ご留意くださいますようお願いいたします。
自費診療のレンズですので、ご本人が十分に納得されたうえで選択されること自体は問題ありませんが、術後トラブルが生じた際に、手術を受けた医療機関で十分な対応が難しく、他院を受診される場合には、受信先での診療も自費となってしまいます。メリットだけでなく、こうした点も含めてご理解いただいたうえで、レンズをお選びいただくことをお勧めいたします。
最後にお知らせです。昨今の物価上昇および為替の影響により、誠に心苦しいのですが、2026年より、ミニウェルレディ/ミニウェルプロクサの費用を 77万円(税込)/片眼、各乱視用を 82.5万円(税込)/片眼 と、従来より改定させていただいております。なお上記費用には、術前検査代・ORAシステム併用の手術費用・レンズ代(度数違いのバックアップレンズ1枚を含む合計2枚)、カプセルテンションリング(CTR)、ならびに 術後3か月までの診察料、検査料、薬剤料 を含みます。なお、度数違いのバックアップレンズ1枚の輸入・返却にかかる費用は、これまでどおり当院が負担いたしておりますので、何卒ご理解賜りますようお願いいたします。
2026.02.18
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
右眼は白内障が進んでいたので、ほぼ霞んでよく見えなかった。
眼鏡でも視力が出ず、ほとんど左眼だけで物を見ている状態だった。- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
震災が多発しており、今後南海トラフ等の大災害が発生して焼け出されたような場合に、眼鏡なしでは全く生活できない状態であるため、眼鏡なしでも生活できるようにしたかった。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
右眼の水晶体が固かったようで手術に少し時間がかかったようだが、特に我慢できないような痛みは全くなかった。
諸星先生が全て状況を説明していただくので、分かりやすく安心だった。- Q.手術後の見え方はいかがですか?
裸眼で生活できており、近くの文字(手帳、新聞等)も全て問題なく見えるし、夜間の運転等もハロー/グレアも全く感じることがない。全体的によく見える様になった。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
保険代理店の仕事で細かい数字や文字を見る仕事だが、手術前はPCに顔を近づけないと見えなかったものが普通に見えるようになった。約款等の小さな文字も問題なく裸眼で読める。
- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
症例集を見て、完全な裸眼で生活できるようになった人がたくさんおられたので、迷わず諸星先生に相談した。
- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
勧めます。
諸星先生は手術も上手だし、レンズの選定等も理論的に説明いただいた。とにかく全体的に信頼出来る先生だと思った。
スタッフの皆さんも親切で優秀な人ばかりで良いクリニックだと思います。


