診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

杉並区30代女性 白内障手術症例#76 内科医師:強度近視・片眼手術(焦点深度拡張型多焦点レンズ:ミニウェル・レディ)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.03p(0.2)
    近見:(0.2)

    左眼
    遠見:0.03 (1.5)
    近見:(1.0)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5p(1.5)
    近見:1.2 (n.c.)

    左眼
    手術なし

少々古い症例になってしまいますが、掲載レンズに偏りが生じないようミニウェル・レディ片眼症例です。

ここ数年右眼が見えにくいとのことで紹介状持参で初診され、両眼とも-10.0Dを超える最強度近視であり、右眼のみ進行した核白内障のため下図OPD scanⅢの左列の内部高次収差は0.700µmと高値を示し、矯正視力0.2まで低下しておりました。左眼も白内障はあるものの、まだ眼鏡矯正にて視力1.5を出すことができましたので、右眼のみの片眼手術ということで話を進めさせていただきました。

普段の生活が眼鏡装用のみであれば、不同視回避のためにあえて強度近視を残す選択となってしまいますが、コンタクトレンズ装用者でしたので、単焦点レンズを読書距離に合わせのほか、下図のように角膜高次収差も0.111µmと低値でしたので多焦点レンズ適応ありとして迷っていただきました。

ご自身は内科医師であり、ご紹介いただいたご主人は大学病院眼科の三役であり、現時点で緑内障性視神経変化はないとのお墨付きでしたので、多焦点レンズご希望であれば、近見距離重視ならテクニスシナジー、手術しない左眼との見え方の質の差のでにくさ重視ならミニウェル・レディをご提案させていただきました。同業のご主人にその他のレンズの特性や、メリット・デメリットご説明してお2人で相談していただき、年齢的に今後の緑内障発症リスクも考慮して最終的にはミニウェル・レディを選択されました。

下図のレンズ度数計算結果が示すように、眼軸長30mmを超え、かつ角膜屈折度40Dに満たない、まるでLASIK術後眼のような形状でしたので、術後屈折誤差非常に起きやすい点もご理解いただき、バックアップレンズを複数準備しての手術となりました。

進行した核白内障かつ、このようなプロポーションの眼球の手術の、技術的なやりにくさ(合併症リスク)と、屈折誤差を生じた場合のことを考え、遠方正視目標はなるべく避けたい気持ちは、同業であるご主人には良くご理解していただけましたので、入替の可能性も含め術前説明させていただきました。
レンズ度数計算は、検査機器にbuilt-inされているBarrett Unversal Ⅱ(BUⅡ)式やSRK/T式などだけでなく、人工知能を利用したHill-RBFやKane式でも計算し、最終的には術中波面収差解析装置(ORA system)の結果で総合的に度数決定を行う予定としました。

手術そのものに関しては、核硬度は進行していましたが核が小さめであったこともあり、強度近視特有の不安定さはあったものの水晶体摘出まではスムーズに終了しました。また、ミニウェル・レディのレンズ安定性を高めるため、かつ入れ替え時のリスク軽減のためカプセルテンションリング(CTR)も挿入して術中波面収差解析を行いました。
問題の測定結果は、術前計算結果では遠視になってしまうレンズ度数を推奨してくる悩ましい結果でした。ミニウェル・レディは未だORA systemでのグローバル最適化されておらず予測精度が高くないため、これまでの当院での最適化済ダミーレンズでの経験とORA systemとの誤差を考慮して、少々勇気を出してBUⅡ式では+0.17と遠視になる8.0Dを選択しました。ちなみにORA systemの予測では8.0Dのレンズ使用の場合の予測術後屈折値は-0.57Dでした。
強度近視の方を遠方正視にするためのレンズは、通常low powerレンズを使用することになりますが、ミニウェル・レディは10.0D以下のレンズは1.0D刻みでしか製造されていないため、微妙な度数選択が必要になった場合を想定して0.5D刻みで製造されているミニウェル・レディ・トーリックの1番弱い乱視度数も準備しておりましたが、結果として使用する必要なく済みました。

術後はドキドキしながら屈折度検査結果を見ましたが、-0.375Dとなっておりほっとしたことを覚えています。術前検査の結果からだけでは8.0Dを選択することはまずないため、今回はORA systemに助けられた結果となりました。
術直後は感覚的にやや近方が見えにくいとの訴えありましたが、視力検査をすると遠方1.5p/近方1.2と数値的には問題なく、術後1か月には自覚的にも近方の見え方が改善されたとのことで、大変満足していただけました。

ミニウェル・レディは独自の焦点深度拡張構造を持ち、異常光視症がほぼない単焦点レンズに近しい見え方が特徴であり、度数選択を正確に行えば40cm程度まで見える魅力的なレンズですが、今回はデメリットというか注意が必要な点として、後発白内障について述べたいと思います。

後発白内障とは、眼内レンズを挿入した水晶体嚢の後壁である後嚢上に、水晶体上皮細胞が移動増殖することにより後嚢が混濁し、また白内障になった時のように霞んで見えにくくなる現象です。どんなレンズにも起こりうる現象ですが、YAGレーザーによる後嚢切開による治療が確立しており、痛みもなく数分で術直後の状態に戻すことが可能ですので、臨床的に問題になることはほとんどありません。これまでの報告では、ざっくりと術後3年たつと5人に1人(約20%)の方がレーザーによる治療を必要としているとされていますが、ミニウェル・レディは、より短期間に後発白内障の治療を必要とする傾向が見られ、上記の水晶体上皮細胞による後嚢混濁でなく、レンズの光学特性上、後嚢そのものの透明度が若干低下するだけでも視機能の低下をきたしやすいと思われます。この症例の方は、ちょうど術後1年後発白内障による視力低下を発症し、つい先日レーザーによる後嚢切開を行いましたが、加療後は物理的に後嚢という膜が1枚なくなる分、この方含め術直後よりも良く見えると言われる方もおられます。YAGレーザーによる後嚢切開は安全な手技ですが、レンズの種類によってはレーザー後ご希望の眼内レンズへの入れ替えはほぼ無理と思っていただいた方が良いので、治療の順番が重要になる場合がありますのでご注意ください。

このように現時点では水晶体と同様の視機能を提供してくれる完璧な眼内レンズは存在せず、レンズごとの一長一短がありますので、ご自分の希望に合致したレンズ選択をされることが術後満足度向上には重要です。なおミニウェル・レディCEマークは取得(EU諸国では承認)しておりますが、国内承認はされていないレンズのため、代理店経由での輸入によりレンズを取り寄せての自由診療となり、手術1か月前には使用度数を決定して発注する必要があります。当院では66万円(税込み)にて手術を行っており、費用にはバックアップレンズ1枚を含むレンズ代と、必要と思われる症例にはカプセルテンションリング(CTR)、術後3か月までの診察・検査・薬代を含みますので、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。

最後に問い合わせの多いALCON社のVivityになります。当院では遠視眼近視眼LASIK眼片眼パンオプティクス/僚眼Vivityなど、既に複数症例使用し1か月以上経過しておりますが、現時点での使用感としては、明視域・異常光視症に関しては、良くも悪くもスペックどおりの印象です。なお個々の症例報告に関しては一般発売後に掲載を予定しておりますのでご了承ください。多焦点レンズに限りませんが、スペックどおりの結果が出うる眼かどうが見極めてレンズ選択することは当然ですが、当院では患者様個々の眼の特性を把握し、ライフスタイルを考慮して、感覚的にはスペック以上の結果をご提供できるように手術中ギリギリまで努めておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

2023.05.31

Q.手術前はどのような状態でしたか?

片眼だけピントが合わずぼやけた状態だったので、パソコンや本を読むのに非常に見えづらかったです。
遠方も良く見えなかったです。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

医師(夫)の勧め。
良く見えるようになりたいなぁと思ったので。

Q.手術中に痛みはありましたか?

多少、針を刺す小さい痛みはありましたが、辛い程ではなかったです。
それよりも術中眩しくて、術眼と反対の眼をずっと開けているのが大変でした…

Q.手術後の見え方はいかがですか?

(今まで見えなくて当然と何も感じていなかったので)遠方が見える様になりびっくり。カーブミラーの映りがよく見え、自転車に乗っていても安全になった。手術直後は手元のあまりピントが合わず不安でしたが、時間の経過で徐々に見えるようになりました。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

パソコンの画面を見ていても疲れにくくなりました。外泊時に眼鏡を持ち歩いたり、忘れた!どうしよう・・・となる心配がなくなりました。術後3週間くらいで手元の本やスマホ画面もよく見える様になり、快適になりました。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

医師の勧め、また車の運転をしたい事とピアノを弾いたり、手元を見る作業もするので、多焦点レンズを選びました。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

当院への誘因性があるため割愛させていただきます