診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

国内2症例目 都内50代男性小児科医師 白内障手術症例#53 (最強度近視:プログレッシブ型多焦点レンズ:MiniWELL PROXA ミニウェル プロクサ WELL Fusion System)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.04(0.4p)

    左眼
    遠見:0.03p(0.5p)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.2(n.c.)

    左眼
    遠見:1.2(n.c.)
    近見:1.2(n.c.)

MiniWELL PROXA国内2症例目になります。
多焦点レンズでの白内障手術ご希望にて、近医眼科より紹介状持参で初診された小児科医(50代男性)の方です(ソフトコンタクトレンズ装用者)。両眼とも核硬度Grade4程度の進行した核白内障と、やや散瞳不良の最強度近視(眼軸長28.9mm)である上に、長年空手をされており眼球打撲での眼科受診も複数回あるとのことで、強度近視に加え外傷によるチン氏帯断裂の可能性も危惧される症例でした。正直術者としては、手術手技だけでなく、レンズ度数計算の正確さを要求される多焦点レンズでの手術はできればしたくないな・・・というのが第一印象でした。OPD(波面収差計測)では両眼とも進行した白内障の証拠として、月が3つ見えてしまうような眼内高次収差の増大が見られますが(下図右列・左列下)、角膜球面収差はやや大きいものの、角膜高次収差は充分小さい結果でした(下図中央・左列下)。そのほか強度近視眼に多い視神経萎縮も認めず、チン氏帯脆弱による手術の難しさと術後屈折誤差の不確定要素以外に、多焦点レンズに向かない点は見つかりませんでしたので、リスクを充分お伝えした上で手術予約となりました。

右眼術前OPD(波面収差計測)

左眼術前OPD(波面収差計測)

術前アンケートでは、夜間運転機会も「頻繁にある」にチェックされており、近見よりは遠方裸眼視力を優先したいけれども、小児科医であるため子供や赤ちゃんに注射をする距離も確保したいとのことで、当初はMiniWELLを予定しておりました。しかしながら、手術までの間にSIFI MediTech社よりMiniWELL PROXAのモニター使用の連絡があったためご提案したところ、優位眼には予定通りMiniWELL非優位眼にはMiniWELL PROXAを用いるWELL Fusion Systemでの手術をご希望されました。

まず優位眼の右眼の目標屈折度は、遠視にならないラインでの度数設定(ファーストマイナス)としました。これまでの経験上、もとより焦点深度の深い強度近視の方にMiniWELLを使用する際は、正視(0D)狙いよりもやや近方の方が術後満足度は高く、かつ遠方視力もそれほど落ちないことが分かっていましたので、右眼の度数は、当院の独自補正回帰式のほか、人工知能を利用したKane式やEvo式も含めた複数の計算結果がほぼ一致したため、比較的自信を持って選択させていただきました。
通常白内障手術は左右1週間毎に行い、国内レンズであれば右眼手術後に視力満足度と屈折誤差を把握してから、左眼レンズ度数を決定・発注すれば手術までに間に合います。しかしMiniWELLはイタリアからの輸入レンズであり発注から到着まで約1ヵ月かかるため、事前に希望に対応できるように左眼のレンズを発注しておく必要があります。この方の場合、右眼術後に左眼目標度数の希望が、①右眼より遠方を見たい場合、②右眼より近方を見たい場合、③右眼同様の見え方を希望される場合が予想されます。しかし強度近視眼(長眼軸眼)に使用する+10.0D以下のlow powerのMiniWELLは、1.0D刻みでしか製造されていなく度数選択肢が少ないため、 0.5D刻みで製造している乱視用MiniWELL toricも念のため取り寄せて、つまり、両眼MiniWELLの可能性も含めた3パターンに対応できるよう準備して万全の体制で手術となりました。

まず右眼の手術ですが、MiniWELL用に術中ガイドシステムVERIONの前嚢切開(CCC)直径をやや小さく設定して行いました(下図左)。術中のチン氏帯脆弱は前嚢切開縁が変位するほどでありませんでしたが、チン氏帯補強水晶体嚢収縮によるレンズ偏位の防止のためにCTR(水晶体嚢拡張リング)も挿入して、手術はトラブルなく終了しました(下図右)。

VERIONによる術中ガイドシステム     CTR(水晶体嚢拡張リング)挿入
 

術後は、裸眼で遠方1.2/近方1.2と大変良好な視力に満足いただけましたが、PROXA使用予定の左眼は、できればもっと遠方をしっかり見たいと予想外の希望でしたので、迷うことなく準備していた①右眼より遠方をしっかり見たい場合のMiniWELL PROXAを使用しての手術となりました。

上図OPDの眼内高次収差値に現れているように、左眼の方がより硬い白内障でありチン氏帯もより脆弱でしたが、同様にCTRを使用して無事手術は終了し、こちらも術後は裸眼で遠方1.2/近方1.2の視力に大変満足いただきました。近方30cmも1.2の視力であり、術後の診察時には「注射をした子供の針穴までよく見えました!」と、お仕事でのストレスも軽減されたようで大変喜んでいただけました。

<術前>         <術後>
 

MiniWELL PROXA使用例は現時点で国内ではまだ本症例含め2例のみであり、患者様もそれをご承知の上、医師の立場として非常に積極的に情報提供していただけましたので、是非下記のアンケート結果を御参照ください
※最後の「注文満載のこだわり派の方は、是非多焦点レンズをお勧めします(笑)!」に関しては、白内障手術学会の多焦点レンズが向かない方の代表例ですのでお気をつけください(汗)

下図は術後のMiniWELL PROXAの徹照像ですが、収差の違いが縞模様のように見えるため、夜間運転機会も高頻度にある患者様に左右のハログレアの違いを詳しく伺ったところ、「ほとんど変わらないけれども、左右交互に隠して車のヘッドライトを見てみると、強いて言えば右眼のMiniWELLに対して、左眼のPROXAはハロというか光のにじみがわずかに大きい。でもMiniWELLがゼロに対してPROXAは10段階の1くらい。車のヘッドライト以外ではその差はほとんど分からない。」とのことでした。一見すると回折型の回折格子のようにも見えるPROXAの縞模様ですが、収差の違いが縞模様ように見えているだけですので、ハログレアの増強にはほぼ影響していないようでした。いまだPROXAの使用経験は2症例だけですが 、MiniWELLの「単焦点とほぼ同様の見え方の多焦点レンズ」という特徴を犠牲にせずに、近方視力を向上させたPROXAの実力は本物であると再確認できました。

<MiniWELL PROXA徹照像>

MiniWELL PROXAの出現でも分かるように、多焦点レンズの性能は日進月歩であり、見える幅、特に近方の焦点がより近いところまで拡張してきていますが、現在主流の回折型では遠近の焦点の幅が増えると、どうしてもハログレアも増えてしまうという欠点が克服されておりません。その点、収差を利用して焦点深度を拡張する独特なデザインのMiniWELL PROXAは、その欠点をかなりのレベルで打ち消したしたレンズであり、今後はMiniWELLのような回折型ではない構造のレンズが増えてくるかもしれません。実際に、J&J社のTECNIS Eyhance(テクニス アイハンス)のほか、米国ではALCON社のAcrysof IQ Vivity(ビビティ)(下図左)は加入度数+1.5D程度ながら、回折型のようなハログレアがほぼないと言われており、欧米人のデスクトップパソコン距離26インチ=66センチで視力0.8、携帯電話距離の16インチ=40センチで0.625の視力が報告されております(下図右)。残念ながら現時点では厚労省の認可もされていませんので、国内導入はまだまだ先と思われますし、+0,5D加入のテクニス アイハンスのように単焦点扱いになるのか、加入度数がほぼ同様(+1.5D)のレンティスコンフォートのように多焦点レンズだけれども保険適応になるのか、それともパンオプティクスやテクニスシナジーのように選定療養対応多焦点レンズになるかどうかも未定です。

<ALCON社 Acrysof IQ Vivity (ビビティ)>
 

他のレンズに話がそれましたが、当院のMiniWELL PROXAのモニター使用は2症例とも大変良好な結果をもって終了し、ようやく先日正式に国内一般発売されました。今後ご希望の方は適応さえあればご使用いただけます。MiniWELL PROXAは世界的にもまだ使用報告が少なく、慎重に適応判断・適正使用する必要がありますが、やはり従来のMiniWELLとは違った目標度数設定の必要性を感じましたので、今後も皆様の術後満足度向上のため引き続き情報提供させていただきます。

なお輸入代理店の御協力により、当院では通常のMiniWELLと同額でのご提供予定ですので、ご興味のある方はお気軽に御相談ください。

2021.09.29

Q.手術前はどのような状態でしたか?

白内障が進んで遠くの見えづらさがどんどん進み(近視化)、さらに黄色いフィルターを通して物を見ているような状態になってきたため、白が黄色がかって見えてしまう状態でした。

小児科では患者さんの咽喉の観察は、病気を診断するうえで非常に大切なのですが、色味が以前と違うので誤診に注意する必要が多くなり、また注射で針先や刺した後の針穴が見えづらくなってきて、仕事でいつもより神経を使う状態になり、疲れを感じることが多くなりました。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

40代後半で白内障と診断されましたが、まだ若いので車の運転やスポーツをするため遠くを見ることも多く、反対に仕事で注射の針先や針穴を見るなど近くの小さな物も見えなくてはならないので、どちらも満たすような自分の希望するレンズがあるか不安で手術を先延ばしにしていました。しかし症状が進み、このまま放置しては患者さんに迷惑をかけてしまうと思い、知り合いの眼科医に相談し、大学病院時代から腕が良いと評判だった諸星先生を紹介していただきました。

Q.手術中に痛みはありましたか?

他の方も書かれておられるように、術中の痛みはあまりありません。
術前の消毒がしみる(消毒している間だけ)のと、手術中のまぶしさ(数十秒で慣れます)くらいです。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

(1) 近見について
まず、一番心配であったのは、赤ちゃんへの注射でした。
自分の場合、赤ちゃんに注射する時に、自分の目から注射部位まで約30cmなので、MiniWellでは近見40cmのため注射の時は老眼鏡が必要になることも覚悟していましたが、左目にMiniWell PROXAを使用したおかげで眼鏡なしで注射ができるようになりました。

(2) 見え方について
小児科では子どもは動き回るので、色々なところにピントが合わないと仕事に差し支えます。多焦点でも何か所かにしかピントが合わないものだと、仕事にストレスを感じると思いMiniWellを選択したのですが、裸眼と全く変わりません。ストレスフリーです。
また、今回PROXAを使用していただき、MiniWellよりハローやグレアが出る可能性がありましたが、右のMiniWellに比べ、左のPROXAは0ではありませんが、気になるレベルではなく、夜間運転に支障はありません。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

仕事を含め、日常生活で眼鏡が不要となり、36年ぶりの裸眼生活に大変満足しています。
眼鏡のかけ外しは感染症のリスクを高めるので、裸眼で仕事(注射や診察)ができること。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

多焦点レンズ、中でもMiniWellさらにはPROXAを希望した理由
職業が小児科なので・・・・

(1)小児科では、注射や採血(30~40cm程度)~診察(1m前後)~スタッフへの指示(5m~)と、幅広い範囲でピントが合う必要がある。
近見40cmのMiniWellでは注射の時に老眼鏡を必要とする可能性があり、眼鏡のかけ外しは感染症のリスクを高めるのでPROXAを選択。

(2)子どもは動き回るので、連続的にどこでもピントが合う必要がある。
何か所かにしかピントが合わないレンズだと、その間のピントの落ち込みが不安だった。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

是非お勧めします!
ただ、レンズの値段ではなく、仕事内容・性格・どういう見え方を望むか?を吟味しレンズを選ぶ必要があります。
私のような、注文満載のこだわり派の方は、是非多焦点レンズをお勧めします(笑)!