診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

町田市60代男性 白内障手術症例#63 強度近視 ミニウェルプロクサ不満例:摘出→ミニウェルトーリック入れ替え

  • 術前

    右眼
    遠見:0.03(0.5p)

    左眼
    遠見:0.03(0.5)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5p(1.5)
    近見:1.2(n.c.)

    左眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.2(n.c.)

おそらく国内では前例がないと思われる「ミニウェルプロクサ摘出→ミニウェルレディ・トーリックに入れ替え」という症例を経験しましたので、検討されている方々に情報共有させていただきたいと思います。また、患者様のご厚意により、ミニウェルプロクサと通常のミニウェルの見え方の違いの詳細なレポートをいただきましたので、情報提供の一環として文末に掲載させていただきます。

1年半ほど前から見えにくく、矯正しても視力がでないため前医受診したところ白内障指摘されたとのことで、2020年11月に紹介状なく当院初診されました。強度近視ハードコンタクトレンズユーザーであり、術後に眼鏡はかけたくないため多焦点レンズでの手術を検討されているとのことでしたが、すでに強い皮質白内障による視力障害を生じており、いつ手術をしても良いと思われる状態でした。

お仕事がらか、色々とレンズについてもその光学特性をご自分で勉強されており、見え方の質を非常に重要視される印象の方でしたので、こちらも積極的に手術を勧めずいたせいもあってか、その後も複数回再診されましたが手術決定までは至っておりませんでした。

なかなか当院の技術でこの方を満足させる結果を導き出すのは難しそうでしたので、他院へのセカンドオピニオンもお勧めし実際受診いただきましたが、結局戻って来られて当院での手術をご希望ご予約されました。実に初診から約1年経過しており、当初左眼の白内障の方が進行しておりましたが、いつの間にか優位眼の右眼の視力の方が悪くなっていました。
そこで当初よりミニウェルでの手術を考えていたようでしたので、ご相談の結果、優位眼である右眼にミニウェルレディ・トーリック非優位眼である左眼にミニウェルプロクサを用いたWellFUSION System®での手術をご希望されました。
通常手術は1週間ごとに左右行いますが、慎重な方でしたので、右眼のミニウェルの見え方が安定した後に、左眼の手術のレンズ決定・発注を行いたいとのことで、念のため左右1か月空けての手術を予定しました。

まず右眼ですが、優位眼ですので遠方視力がしっかり確保される度数設定を行い、角膜乱視も完全矯正するため、乱視用のミニウェルレディ・トーリックで手術を行いました。通常の選定療養や保険適応の乱視用レンズは1.5Dからしか製造されておりませんが、ミニウェルは1.0Dから作製されていますので、マイルドな直乱視も直しすぎる(倒乱視化してしまう)ことなく矯正することができます。
術中チン氏帯脆弱はありませんでしたが、水晶体嚢の収縮・癒着防止のためCTR(水晶体嚢拡張リング)も同時に挿入し、皮質混濁は強いものの核硬度もそれほどではなかったため、超音波もそれほど使用せず手術は問題なく終了しました。術後は裸眼で遠近とも1.5/1.2と良好な視力に満足いただきましたが、術後経過するほどに、できれば暗所でももう少し楽に手元が見えたいとのご希望がでてきましたので、左眼はやはりミニウェルプロクサをご希望されました。

左眼も同様に軽度の角膜直乱視がありましたがミニウェルプロクサ乱視用がないため、術後の状況によってはLRI(角膜輪部減張切開)による乱視軽減が必要になる可能性もお伝えしての手術となりました。目標屈折度設定は、右眼にプラスやマイナスレンズを負荷して、わずかに近方にずらしたり遠方にずらしたりして見え方をシュミレーションし決定しましたが、ベストな度数は製造されていませんでしたので、やや遠方もしくは近方の2択で悩んでいただきました。ご相談の結果、右眼優位眼の遠方視力はもう十分満足とのことでしたので、左眼は非優位眼ということもあり遠視目標度数は避け、ややマイナスよりのレンズに決定し発注となりました。

右眼はその後も大きな屈折や見え方の変化なく経過し、予定通り1か月後に左眼の手術になりました。こちらも同様にCTRを挿入し、少しでも残余乱視を矯正するために術中控えめにLRIも加え手術は問題なく終了しました。

術翌日の裸眼視力は遠方1.0/近方1.0であり、こんなものかなと思っておりましたが、術後11日目には遠方0.8p/近方1.2遠方視力が低下傾向でした。検査による他覚的屈折度はほとんど変化ありませんでしたが、自覚的な遠方の視力不良と日中でもハロとスターバーストの異常光視症の訴えが日に日に強くなってきましたので、その症状が残余乱視によるものか、レンズの構造そのものによるものか判別するため、乱視を含めた屈折誤差を完全に矯正するコンタクトレンズを装用して過ごしていただきました。しかしながら、遠方視力は自覚的に改善するものの、異常光視症は改善されないと残念そうにご報告いただきました。つまりLRIを追加して乱視をさらに軽減しても、ハロとスターバーストの異常光視症の改善は期待できないことになります。neural adaptationいわゆる「慣れ」を期待して1か月は様子をみることとしましたが、やはり右眼に比べ特にハロを日中も感じるため耐え難いとのことで、ご相談の結果、右眼同様ミニウェルトーリックに入れ替えることとなりました。もともと見え方の質にシビアな印象の方でしたので、ご本人には事前にお話しはしていませんでしたが入替リスクもありうると考え、、万一のためにプロクサ注文時にバックアップとしてミニウェルトーリックも発注・確保しておいたため、レンズ到着までさらに1か月待たずに。より安全なタイミングで入れ替え手術を予定することができました。

結果として術後1か月での入れ替え手術となりましたが、このような時のためにCTRも挿入してあったことに加え、ミニウェルはレンティスコンフォートと同様に親水性アクリルという材質であるためか、レンズと水晶体嚢の癒着もほぼなく前回手術時の創口を利用することで創口を増やすことなくスムーズに入れ替えることができました。入れ替え手術はリスクが大変高いと思われるかもしれませんが、白内障手術と違い「静的」な手術の側面が強いため、個人的には術後1か月であれば通常の白内障手術よりも安全なのでは(突発的なトラブルの発生は少ない)と考えます。実際の入れ替えでは、レンズと水晶体嚢の癒着よりも、水晶体前嚢と後嚢の癒着が問題となることが多いです。前・後嚢癒着が強い場合は、新しく入れるレンズのスペースの確保が難しくなるため、形状によっては希望のレンズを入れることができないリスクや、乱視用レンズの場合は目標とする位置に固定することができない可能性もありますので、患者様もなかなか決断が難しいとは思いますが、やはり安全面と確実性からは早いに越したことはないかと思います。

ミニウェルトーリックに入れ替え後は、左眼も遠近とも1.2/1.2と良好な裸眼視力に大変満足していただき、「ハロもスターバーストも無くなりました!」と悩み事が1つ無くなったように晴れ晴れと言っていただけてほっとしました。患者様には通常1回で済むところを、2回痛い思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでしたが、最後まで妥協せず難しい決断をしていただいたことに感謝するとともに、最終的に結果にご満足いただけて私も大変嬉しく思いました。

今回のミニウェルプロクサの不満例ですが、これまでのプロクサ大満足の症例との相違点は何だったのだろうと術後色々と考えてみました。もちろん軽度ですが残余角膜直乱視のせいもあると思われますが、それよりも個人的に気になったのは左右の手術を1ヶ月空けた点です。ミニウェルは一見単焦点と見分けもつきませんし、実際見え方も単焦点とほぼ同様かつ焦点深度拡張されている高機能レンズですので、先にそのミニウェルの質の高い見え方右眼がすっかり慣れ、期待値がかなり高くなった状態で左眼にプロクサを使用したため、その見え方のクオリティの差が余計に気になってしまったのも、不満例となった原因の1つなのではないかと考えております。術前の左眼の白内障もかなり強いものであり、夜間のグレアなどもそれなりにあったはずですので、術前に比べプロクサを不満に感じる可能性は低いと予測しておりましたが、結果として患者様においては、比較対象が「術前の白内障の状態」でなく、「ミニウェルを入れた右眼」になっていたことで、ミニウェルに対するプロクサの見え方の劣性が気なってしまったのかも知れません。

当院では、優位眼の屈折誤差のリスクは少しでも減らしたいため、左右同程度の白内障の場合は通常非優位眼から手術しますが、このWell FUSION System®では優位眼ミニウェルから先に手術することが推奨されております。その理由を販売元のSIFI MedTech社に問い合わせましたが、「ミニウェルの方がプロクサに比較して、neural adaptationつまり慣れが早いことが、先に優位眼に挿入する理由」との回答を得ましたが、いまひとつ答えになっていませんでした…。おそらく優位眼のミニウェルでも慣れることができない=視力が出にくい方は、プロクサではもっと慣れにくい=視力が出にくいリスクが高いため、その場合はプロクサではなく通常のミニウェルを使用した方が安全だからという意味なのかもしれません。ちなみに当院では、あまりにも非優位眼の白内障の方が進行していたため、ミニウェルプロクサの手術を先に行った方もいますが、非常に経過良好であり特に慣れが遅い印象はありませんでした(今後症例追加予定)。現在のところ、ニウェルプロクサでのハロ・スターバーストの訴えの経験はこの方だけですが、希望焦点距離と目標屈折度設定だけでなく、手術の順番や間隔、左右バランスなどを考慮し、その適応に関してはより慎重に多角的に決定する必要性があると考えさせられた症例でした。

ミニウェルプロクサ目標屈折度設定はやはり通常のミニウェルと違った工夫を要しますし、自覚屈折度から逆算する限り、そもそも、レンズの固定位置を反映するA定数というレンズ度数計算に用いる数値自体も若干見直す必要性があるかもしれないとも感じております(通常レンズ形状が同じであればA定数は同一となります)。国内他施設での使用成績の情報はまだ出回っておりませんが、今後もこれまでの使用経験と国内外の情報をもとに、患者様の期待値に見合う手術ができるよう努めたいと思います。

今回は「眼内レンズ交換」という方法で問題解決したことになりますが、もちろん必要なければ手術は1回で済む方が良いことは当然です。しかしながら高機能なレンズの種類が増え、患者様の要求も多様化するなかでは、眼内レンズ交換のニーズはどんどん増えていくことが予測されますし、同時にリスク・侵襲をより少なくする準備と手技が必須になると思われます。最近では収縮・癒着しない人工水晶体嚢なるものも開発されつつあるようですので、今後は眼内レンズ交換は特別なことでなく、より気軽に「最新レンズにアップグレード交換」などということが可能な世界になるかもしれません。

2022.03.23

 

以下患者様のご厚意によるレポートですので、ご興味のある方はご参照ください。

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プロクサの状況について

〇入れ替えの理由

理由としましては、顕著なハローが解消されなかったことが主になります。この現象が一生続くのは夜間運転等非常に厳しく、近距離の多少の見えづらさは老眼鏡等で補正できますが、今回挿入したプロクサでのハローの解消は難しいと考えました。
また中間から遠方にかけての見え方が徐々に悪くなり術後三週間ほど経過し視力0.5程度となりました。
プロクサのラインナップに+9.5が無く+10.0の選択でしたので、後日LRIをしても視力が向上しないかもしれない懸念もありました。またプロクサの見え方は、近方優位との情報でしたが、右眼(ミニウェル トーリック)に比べ若干良いというレベルでした。
以上の理由を踏まえ月日が経つと入れ替え手術の危険度が増すことから入れ替えを決断しました。

 

〇見え方について

左眼(プロクサ)の眼帯を外した直後、色温度が右眼(ミニウェル トーリック)よりかなり高く感じました。白内障による混濁が取れたためとも言えますが、左眼にミニウェル トーリックに入れ替えた直後は、逆に色温度が右眼より若干低く感じました。

視力については、眼帯を外した直後、1.0弱でしたが、日を追うごとに中間から遠方の見え方がぼやけ最終の視力検査では0.5程度だったと記憶します。入れ替え判断で、乱視矯正用コンタクトを装着させて頂いたときハローは解消しませんでしたが、視力が1.2から1.5程度まで劇的に回復し乱視の影響が大きいことに驚きました。

問題のハロー・グレアについては、日数が経っても改善されずホームページ掲載のイメージ写真を用いると見え方は、下図のように顕著なレベルでした。

日中でも太陽光が反射している金属部分やヘッドライトを点灯している自動車・自転車等を見ると夜間ほどではありませんがハローが見えました。

補足として右眼(ミニウェル トーリック)で手術一週間後、午後の診療で散瞳検査をした日の帰路(夜間)、街灯や自動車のヘッドライトなどあらゆる発光機器でプロクサ以上の著しいハローが見えたことがありました。瞳孔の開きが強いとミニウェル トーリックでもハローが見えるのかもしれません。

また、別の現象として左眼プロクサで夜間街灯を通過する際、正面視で眼内に複数の正円状の輪が見え、歩行とともに輪は不規則に動き、街灯を通過し終わると消えるという現象がありました。輪が眼内で移動することからレンズのエッジそのものというよりレンズのエッジに反射している光が見えているのかもしれません。

右眼のミニウェル トーリックでも同様の現象はありましたが、輪は一つで軽度のものでした(現在も右眼で時々輪は生じますが気になるレベルではありません)。
尚、入れ替え後の左眼ミニウェル トーリックでは、この眼内の輪はほとんど生じません。
今回プロクサで何故ハローが顕著に出たのか不明ですが、前例の方がプロクサ挿入の非優位眼で気になるレベルでないが若干ハローが見えたとのことですので、度数設定や手術の過程、プロクサの基本構造に由来するもの以外にレンズそのものの製造ばらつきや患者固有の眼内特性など何らかの条件が重なるとハローが顕著に生じる可能性があるのかもしれません。
ワールドワイドでプロクサの手術症例数はまだ少ないとのことですが、ミニウェルを希望する方は、ハロー・グレアの解消を期待する傾向が強いようですので今後製造メーカも含めウオッチが必要かと思います。

 

〇最後に

手術前のレンズ選択等で医学文献や様々な医療機関が発信している情報に触れましたが、著名なクリニックでも明らかに間違いや経験に基づかない断定も散見されました。
私は、長年企業で液晶光学素子の開発をして参りましたが、高性能レンズなど最先端の光学デバイスは品質も含め極めセンシティブでそれを使う側は経験と高い技術が求められました。
やはり貴院のように信頼できるクリニックで手術を受けることがベストだと確信しました。

2022.2.22

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Q.手術前はどのような状態でしたか?

両眼、霞がかかったような見え方になり特に右眼はひどく手術直前は夜間の運転は困難な状態でした。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

2020年後半から急に見え方が悪化しコンタクト・眼鏡等で矯正しても視力が0.5〜0.7程度しか出なくなりました。このままでは数年後の免許更新も危ぶまれると思い手術を受けることを検討しました。
レンズの性能は、最近進歩が著しく当初なかなかレンズの選択を決定できない状況でした。
しかしいよいよ、近くも遠くも見えずらくビジネスや日常生活に支障をきたすようになり手術をを決断しました。

Q.手術中に痛みはありましたか?

若干の圧迫感を感じる時がありましたが、痛み等は特にありませんでした。また手術中の処置を院長に逐次説明して頂けたので進行具合が把握でき心理的に余裕がでました。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

手術翌日、眼帯を取ったときに見え方が明るく鮮明で驚愕しました。

焦点(ピント)の合い方は、2週間程度、近方から遠方、遠方から近方への切替に若干時間を要しましたが、3週間以降から比較的スムーズに焦点が合うようなりました。

選択したレンズは、事前情報によると遠方から中間距離の見え方は優れているが、近方が弱いということで心配しましたが、実際は近方視力で1.0〜1.2程度、文庫本も無理なく読むことができました。
 
多焦点レンズは、神経質な人には向かないという通説がありますが、 
1)患者は、多角的に十分な事前調査を行ない、見え方の希望を明確にする。
2)医師、スタッフ、設備、実績等総合力が高いクリニックを選出し手術を受ける。
3) 希望に合った適切なレンズを選定する。
主観的ですが、これらの相乗効果が得られれば、より満足のゆく見え方が期待できるのではないかと思われます。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

約40年ぶりにコンタクトレンズや眼鏡が不要となりQOL(生活の質)が術前、術後では天と地ほどに向上しました。
ビジネスミーティングでは、プロジェクターで映し出された資料の文字を難なく読むことができ、車の運転もとても楽になりました。
普段ハードコンタクトレンズを使用していましたが、裸眼で生活できるようになった
ことから日々のレンズ洗浄の手間やレンズの紛失の心配もなくなりました。

デスクワーク、ドライブ、旅行、美術鑑賞、読書等ビジネスから趣味まで広範に充実させたいと思います。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

近年、各社の多焦点レンズの性能が向上していることを知り、コンタクト・眼鏡不要を期待して多焦点レンズを希望しました。

5感の中で視覚から得られる情報量は最も多く90%程度と言われていますので、これから数十年は生きることを想定し見え方のクオリティを最も重視しました。
レンズの選定では、スムーズ且つ鮮明に見えることに加え、夜間のハロー・グレアが殆ど無いことにも重きを置き現時点で最良と考えられるレンズを選択しました。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

手術は怖いと感じる方も多いと思いますが、ご自身が納得したなら、諸星院長を信頼し勇気を持って手術を受けられることを勧めます。

「手術を勧めますか?」
の項目は、殆どの方が勧めますになります。

そこで、

何故当院を選びましたか?

などの質問項目を加えていただくと、これから手術を検討する方々に
参考になるのではと思われます。