診療内容

白内障手術症例集
単焦点眼内レンズ

神奈川県横浜市50代女性 白内障手術症例#88 強度近視眼・軽度モノビジョン(テクニス アイハンストーリック)

  • 術前

    右眼:3年前に手術済
    遠見:0.4p(1.5)
    近見:1.2 (n.c.)

    左眼
    遠見:0.03(0.8p)

  • 術後

    右眼:手術済にて不変
    遠見:0.4p(1.5)
    近見:1.2 (n.c.)

    左眼
    遠見:1.5p(1.5)
    近見:0.6p(1.5)

2021年の6月に右眼の核白内障に対し、乱視用(トーリック)単焦点レンズを用いて手術した方で、術後3年目左眼の手術をご希望された方です。

右眼術後は約1年半で後発白内障を発生し、レーザー後嚢切開を行った他は特記事項なく経過良好でしたが、2024年1月再診された際に、左眼核白内障進行により矯正視力0.8pと低下しており、下図OPD scan Ⅲの右列の図のように核白内障特有の高次収差: trefoilにてお月様が3つに見えるようになってきたため、手術をご予約されました。

3年前(2021年)の右眼手術時には、その焦点距離と乱視レンズ使用に際し選択を悩まれましたが、両眼とも強度近視であり近方は左眼で見えるため、右眼読書距離+αを狙って-2.0D程度(約50cm)の目標度数で手術を行いました。術後3年経過後の自覚屈折度は-1.875Dとなり、近見はもちろんですが予想以上に遠方が見えることに満足していただけておりました(詳細は下記リンク参照)。
https://morohoshi-ganka.com/opeex/816

国内で承認されている、いわゆる純粋な単焦点レンズに関しては、レンズ間の視機能の違いはほぼ認められません。しかしながら2021年当時、海外では既に高次非球面単焦点レンズであるテクニスアイハンスの使用例が報告されており、日本でもいずれ使用可能になることが予想されましたので、将来の左眼手術のことも考え、右眼にはアイハンスと同じプラットフォームのJ&J社のテクニストーリックオプティブルーという乱視用単焦点レンズを使用しておきました。プラットフォームとは多焦点や付加価値レンズの土台となる単焦点レンズのことであり、実際J&J社のオデッセイやシナジーなどの他の多焦点レンズやアイハンスは、いずれもテクニスオプティブルーの光学部中央に、回折格子を設けたり高次非球面部分を設けたりすることで、多焦点性や焦点深度拡張機能を付加しています。

話はそれましたが、術後3年経過した2024年には予想通り日本市場にもテクニスアイハンスが登場しておりましたので、右眼同様に単焦点はもちろん使用可能ですが、焦点深度の付加価値を狙ってアイハンスという選択肢もお伝えしたところ、今回はそれほど悩まれることなく単焦点+αのテクニスアイハンストーリックでの手術をご希望されました。

次に目標度数の決定ですが、核白内障の進行により、3年前には-8.5Dであった屈折度は-14.0D程度の最強度近視になっていましたので、右眼同様の近見合わせをご希望されるかと思われましたが、これまでは主に左眼のみハードコンタクトレンズを装用して軽度モノビジョン様の生活をされていたため、老眼鏡使用なく快適に生活できていたとのことでした。そこでその状態を再現するべく、右眼の目標は、眼鏡装用も可能な範囲での左右差(不同視にならない程度)での遠方狙いをご希望されました。アイハンスの加入はわずか+0.5D程度ですので、遠方合わせの方が、その+αの付加価値を有効利用しやすいため、私も可能ならその選択がベストと考えておりました。逆にもし近方狙い希望だったら、過去に1例だけですがアイハンスの不快光視現象のため単焦点レンズへの入替手術を経験したこともありましたので、より確実な単焦点での手術をお勧めしていたかも知れません。

眼鏡装用も可能な範囲での左右差」は一般的には±2.0D以内とされていますが、もちろん個人差がありますので、まずは限界値に近い-1.50Dのコンタクトレンズを右眼に装用いただき見え方を体感していただきました。その結果、遠方1.5/近方0.5程度となり、ここまで遠方が見えなくても良いかなとの感想でしたので再度微調整を行い、1.25D程度の左右差を目標として度数選択を行いました。

左眼の手術に関しては、右眼よりも核硬度は低くスムーズに水晶体摘出は終了し、右眼手術時にはまだ導入していなかった術中波面収差解析装置であるORAシステムを使用して測定した全乱視度数乱視軸を参考にして、使用レンズ度数を決定しました。

術後は-0.25Dの自覚屈折度となり、裸眼視力:遠方1.5p/近方0.6pとなり、左眼で遠方~中間右眼で中間~近方がカバーされることで、コンタクトレンズも眼鏡も使用せずに生活できるようになったと喜んでいただけました。また余談になりますが、下図術後OPD scan Ⅲの結果より、右列から全乱視がゼロ(緑枠)になっていることが分かりますし、左列からは、レンズ中央値の屈折度(赤枠)よりも周辺5.00mmの方の屈折度(青枠)は近視が小さい=中央部分にアイハンスの近方加入が存在することもうかがえます。

白内障=水晶体混濁があるかないかと言われると、下図のように初診時の3年前からもちろん左眼も軽度の白内障は存在していましたが、眼鏡やコンタクトレンズでの矯正視力は1.2と良好でした。当院ではご本人が白内障による視力障害で困っていない限り、手術をお勧めすることはありませんし、ご自分の水晶体の機能が低下し、眼内レンズの機能の方が、患者様の天然の水晶体の機能を上回ると見込まれる場合には手術をお勧めしております。

以前の繰り返しになりますが早く手術すれば快適な期間が長くなるかもしれませんし、手術を先送りにすれば、この方のように新しい高機能なレンズを使用することができるかも知れませんが、通常の緊急性がない白内障手術においては、手術時期の決定権は患者様がお持ちです。ですので当院では初診時には現在の白内障による視機能低下の程度の把握と、眼内レンズにより改善される点・失われる点のご説明にとどめて、手術をされるかどうかは患者様にお任せし、資料をお渡して今一度考える時間を設けていただいております。その結果やはり手術ご希望の場合には手術予約をしていただきますが、もちろん初診時にその場で手術を予約される方もおられますし、持ち帰ってご家族の方と相談して決める方もおられます。もちろん白内障相談で受診されるほとんどの方は、手術により裸眼視力を上げることは可能な状態ですが、現時点で手術が最適な解決方法かどうかは、患者様の眼科所見以外の個々の条件・状況によると思われます。

白内障手術は基本的に一生に一度の手術ですので、後悔ない結果になるよう、特にこの方のようにコンタクトレンズを利用されている方や、強度の近視や遠視でない方は、両眼の手術が必要かよく考えてから手術予約されることをお勧めします。もちろん、ご自分で判断できない際にはアドバイスさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

2024.10.09

Q.手術前はどのような状態でしたか?

白っぽく黄色っぽくかすんでいて、コンタクトをしても視力が低下していた。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

先に右眼を手術しており、左眼もいずれする必要があったから。

Q.手術中に痛みはありましたか?

ほとんどなし。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

遠方がよく見えるようになり、日常生活が大変楽になった。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

コンタクトが不要になった。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

右眼に同種(同メーカー?)の単焦点レンズを使用しており、先生からの勧めもあり選んだ。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

見えづらくなったら手術をお勧めします。説明をしっかりしてくださり、信頼出来る病院だと思ったから選んだ。