診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

千葉県印西市50代男性 白内障手術症例#84 軽度近視眼 Mix-and-Match右眼:Vivity:ビビティ⇒左眼:パンオプティクス

  • 術前

    右眼
    遠見:0.3(0.6p)
    近見:0.3(0.5)

    左眼
    遠見:0.3(0.8p)
    近見:0.4(0.7p)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5(i.d.)
    近見:0.8p(1.2)

    左眼
    遠見:1.5(i.d.)
    近見:1.2(n.c.)

2020年2月に両眼とも見えにくいとのことで白内障手術相談にて初診された方です。皮質混濁により矯正視力0.8pまで低下しておりましたので、「日常生活に支障あるなら手術という選択肢もありますが、支障ないなら経過観察でもそれほど手術時のリスクの増加はないでしょう」とお伝えし、手術希望あれば再診としておりました。その後1年に1度程度経過観察に来られていましたが、以前より近視化してきている感じでさらに見えにくくなったと、2023年9月に1年3か月ぶりに再診され手術を予約されました。

遠近両用眼鏡を使用されておりましたが、もともと遠方は裸眼で見えていたとのことでしたので、皮質混濁に加え核白内障も進行してきたことにより近視化してきたと考えられました。

術前アンケートでの見たい距離の優先度は、1.中間>2.遠方>3.近方であり、夜間含め運転機会も頻回にあり、趣味はゴルフをされているとのことでした。単焦点レンズでも、術前状態よりは遠近とも裸眼視力を向上させる度数選択は可能である旨もご理解の上、眼鏡使用頻度をなるべく減らしたければ、多焦点レンズの中ではVivity(ビビティ)が1番向いているとご説明させていただきました。その際は、まず右眼Vivityを遠方ピッタリに合わせ、優先度の高い中間~遠方視力を確実に確保し、その結果で左眼のレンズを同じくVivityで調整するか、眼鏡装用なしを目標として近方視力確保のためパンオプティクスにするか決めていただくフレキシブルなプランに同意いただき手術となりました。

右眼はやや散瞳不良でしたが白内障摘出は問題なく終了し、術中波面収差解析装置(ORAシステム)で測定を行い、測定値の術中全収差値を回帰式に入力して適切な度数を決定しました(Vivityはまだ最適化が不十分なためか、他レンズよりもORAシステムの推奨値に誤差が生じるため、屈折誤差を最小にするために当院では回帰式も併用しております)。

術後は目標通り自覚屈折度ゼロ(他覚屈折度は-0.50D)となり、術翌日遠方1.5/近方0.3と近見視力が不良であり、Vivityの近方部分がまだうまく使用できていないようでしたが、術後4日目には遠方1.5/近方0.7pと改善しておりました。自覚的には、遠方はとてもよく見えるがスマホが見えにくいとの訴えが残りましたが、ハログレアは全く感じず非常にクッキリ見えるとのことでしたので、スマホが問題なく見える目標度数を探ったところ、右眼のVivity眼+0.75D負荷すると近方1.0pまで見えて快適とのことでした。しかしながら、0.75D近方にずらす遠方視力は0.3Dまで低下し、ご本人も同じVivityを近方にずらす方法には乗り気ではありませんでしたので、ご相談の上、左眼は遠方を犠牲にすることなく確実にスマホが見える3焦点レンズパンオプティクスを、異常光視症が最小になるようにピッタリ遠方に合わせる手術をご希望されました。

ちなみにVivityやレンティスコンフォートやアイハンスなど、レンズの部位により度数の異なるレンズでは、加入部分が瞳孔領に占める割合により他覚屈折度が異なりますが、当院での解析では、自覚屈折度ゼロVivity挿入眼の他覚屈折度は-0.45Dとなっております。つまりオートレフケラトメーの値が-0.45Dの場合ちょうど遠方ピッタリとなっているという意味です。その他、当院では、アイハンスで-0.51D、単焦点レンズでも-0.20D程度の自覚・他覚屈折度の差(偽調節含む?)が確認されております。

左眼も同様に白内障摘出後にORAシステムでレンズ度数を決定し、手術は問題なく終了しました。術後はこちらも目標通り自覚屈折度ゼロとなり、術翌日から遠方1.5p/近方1.2とスムーズに良好な視力が得られ、スマホも良く見えると満足いただけました。

術後1ヶ月には両眼とも遠方視力は1.5近方視力右眼0.8p/左眼1.2とすっかり多焦点レンズに適応され、眼鏡不要でお仕事・運転・趣味を楽しめる生活に喜んでいただけました。また個人的に興味があったため、左右のレンズの違いによるハログレアなどの異常光視症の左右差についても伺わせていただきましたが、「全く感じないというか全く気になったことはない」と予想と異なる興味深い回答を得ました。

本症例の方の初診は2020年でしたので、結果的に3年半手術を先延ばしにしたおかげで、クラレオンVivityとパンオプティクスを用いた、より満足のいくレンズでの手術を受けることができたかと思います。通常の白内障手術緊急性はないものがほとんとですので、この方のように日常生活に支障がないうちは、大幅なリスクの増加がないかぎり慌てて手術される必要はありませんし、技術の進歩により、この方のようにより付加価値の多いレンズで手術を受けることができる可能性もあります。

このように片眼Vivity/僚眼パンオプティクスの組み合わせは、staged implantにより片眼術後のご本人のご希望を確認し、屈折誤差を生じなないように使用方法さえ間違わなければ「良いとこ取り」できる非常に良い組み合わせかと思われます。もちろん術者側としては、左右異なるレンズを使用することで、片眼の術後屈折誤差が僚眼に応用できるメリットがなくなり、僚眼の屈折誤差予測精度も落ちるため、できれば避けたいことです。つまり、術前にあらかじめ決定するべき選択でなく、あくまで片眼の術後満足度により決定されるべきと考えます。

自動車運転が必須な土地では、夜間のハログレア回避のために多焦点レンズを断念される方も多いかもしれませんが、そのような方々へも適していると思われますので、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。その他、術後満足度が高い(=不満が少ない)結果を得やすい点は、術者側にも有益かと思われますが、当院の経験で手術の順番満足度に影響を及ぼしている傾向が見られますので、次回は先にパンオプティクス、後にVivityを使用した症例を掲載させていただきます。

2024.03.24

Q.手術前はどのような状態でしたか?

遠くも近くも見えにくい状況。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

メガネなしでの生活を希望。

Q.手術中に痛みはありましたか?

特になし。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

近く(新聞など)メガネなしで読めるようになった。
車の運転でもメガネの必要がなくなりました。
夜間も運転も全く問題なし。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

上記記載。
パソコンの作業でメガネの必要がなくなりました 。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

多焦点。
メガネなしでの生活を希望していたから。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧めたい。手術例が豊富であることから選択。