回折型3焦点レンズ ファインビジョンHP(FineVision HP:POD F GF)導入のお知らせ
ファインビジョン:FineVision(POD F)は、もともと2011年にベルギーのPhysIOL社が販売を開始した親水性アクリルの回折型3焦点レンズであり、「近方が良く見える3焦点レンズ」として歴史と実績があります。当院での症例#58に掲載されているとおり、近方焦点距離33cm程度まで見えるため近方重視の方にはメリットの多いレンズですが、このたび、そのレンズ素材が独自の疎水性アクリルに変更されたファインビジョンHP:Harmonized Performance(POD F GF)がBVI社からの販売となり、選定療養対象レンズに加わりました。なお、ファインビジョンシリーズにはTriumfなど複数のレンズが存在しますが、現時点では選定療養対象レンズは、ファインビジョンHP(POD F GF)のみですのでご注意ください。
ファインビジョンHPのレンズ面での加入度数は中間+1.75D=約80cm、近方は+3.5Dとテクニスシナジーとほぼ同等であり、下図のように国内臨床試験において、近方33cmから遠方まで小数視力1.0以上の良好な視力が得られております。
また、レンズ上に同心円状の縞模様をもつ回折型レンズであるため、当然ハロ・グレア・スターバーストといった異常光視症はある程度は生じますが、アポダイズ構造を採用することで、そのような異常光視症が軽減される工夫がなされています。アポダイズ構造とは、簡単に言うと「瞳孔径により光エネルギーをコントロールする仕組み」であり、下図のように瞳孔が拡張する暗所では、まぶしさを軽減させるため光エネルギーを遠用に配分して、異常光視症を軽減することを可能にしています。逆に、近見反射による縮瞳が得られにくい暗所での近方視には注意が必要とも言えますが、その点は強い加入度数でカバーされていると思われます。光エネルギーの配分は瞳孔径3㎜
このようにファインビジョンHPは、眼鏡なしの生活をご希望される方の選択肢となりうる選定療養対象の回折型3焦点レンズであり、近方距離感を重視され30cm程度までしっかり見たいけれども、なるべくハロ・グレア・スターバーストなどの異常光視症を減らしたいという方には向いていると思われます。なおレンズ定数の最適化(術後屈折誤差)の観点からは、これまで数多く使用され充分最適化が行われているテクニスシナジーやパンオプティクスの方が安心感がありますし、光エネルギー配分の観点からは、遠方と中間60cm程度のデスクトップパソコン距離を重視されたい方には、パンオプティクス(中間加入度数:+2.17D)の方が向いているかも知れません。
・近方加入度数
テクニスシナジー(未公表), ファインビジョン(+3.5D)>パンオプティクス(+3.25D)
・ハロ・グレア・スターバースト
ファインビジョン≒パンオプティクス<テクニスシナジー
・光エネルギーロス
パンオプティクス(12%)<ファインビジョン(14%), テクニスシナジー(未公表:8~18%)
また素材の変更により、その名が示すとおりGF:glistening-freeによるレンズ光学部のグリスニング発生の改善の他にも、おそらく支持部の強度も高まり、特殊例と思われますが症例#58のような予期せぬ術後屈折変化も生じにくくなっていることも期待され、当院でも導入させていただくこととなりました。
なお残念ながら現時点では、レンズパワーは+10.0Dからであるため度数によっては強度近視には不対応であり、乱視用は販売されておりません。
適応含めご興味のある方はお気軽にご相談ください。