- 多焦点眼内レンズ
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調布市60代男性 白内障手術症例#58 乱視用回折型3焦点レンズ:ファインビジョン+単焦点Add-onアドオンレンズ
2年前に前医で3焦点回折型多焦点レンズである乱視用ファインビジョン・トーリックを用いて白内障手術をされましたが、遠視化してしまい遠近とも見えづらいとのことで初診されました。
確かに両眼とも近方裸眼視力は0.2程度であり、右眼は+2.25D、左眼は+2.75Dの加入を加えないと近方は見えない状態であり、せっかくのファインビジョンの多焦点性がムダになっておりました。
詳しくお話をお伺いすると、術直後は遠近ともよく見えていたけれども術後3~4週目頃より遠近とも見えにくくなってきており、前医では「水晶体嚢内でレンズが後方に移動し、前房深度が深くなったことで遠視化している」と説明されたようです。
実際、ご自分で作成したレンズ位置の変化図と、グラフ化した術後前房深度の変化を持参されておりましたので、患者様ご了承のもと掲載させていただきます。
診察させていただくと、確かに両眼とも水晶体嚢、特に前嚢が収縮し、レンズ支持部を基点としてレンズ光学部が後部(硝子体側)に押しやられているようでした。これではレンズを摘出交換することはリスクもありますし、せっかく高価な乱視用3焦点レンズであるファインビジョンが偏心なく乱視軸もピッタリきれいに挿入されていましたので、レンズを温存して度数補正のためのアドオンレンズを追加挿入する治療を提案させていただきました。患者様ご自身も事前にいろいろ調べられており、その場でアドオンレンズでの治療方針に同意されました。
しかしながら前嚢収縮により多焦点効果も減弱しており、収縮を解除してあげることで、遠視化がやや軽快する可能性もありましたので、まずは①YAGレーザーにて前嚢切開して度数変化が落ち着いたのちに、②アドオン挿入するという、2期的な治療計画としました。
下図は前嚢切開前後の写真ですが、YAGレーザ後では光学部が広く露出されたことが分かりますし、自覚的にもすっきり見えるようになったと言われていました。また前嚢収縮による光学部が後方に押される力がやや解除されたため、0.5D遠視化が軽快し視力も若干向上していました。
前嚢切開前 ⇒ 前嚢切開後
次にアドオンレンズの度数決定ですが、こちらは眼鏡とコンタクトレンズ装用にて擬似的に体験していただき、ファインビジョンの多焦点性が充分発揮されるところで度数設定をしました。アドオンレンズの度数決定は、眼鏡処方やコンタクトレンズ処方に似た方法になりますので、白内障手術でのレンズ度数決定と違い度数ズレはほとんど起きません。ただし残念ながら度数は0.5D刻みであり、コンタクトレンズのように0.25D単位ではありません。アドオンレンズは両眼同日手術もできますが、この方は念のため片目ずつ、まずは右眼から手術し、左眼の度数は右眼の満足で決定としました。
右眼は確実に近見裸眼視力を確保されたいとの希望から、やや近方重視で度数設定しました。手術はレーザー切開した前嚢をトリミングしてアドオンレンズを挿入するだけですので問題なく終了しました。
右眼は術後1週間では裸眼遠方1.2p、近方30cmで1.0とご希望通り非常に良好な結果に満足いただきました。左眼のレンズは右眼に比べわずかに遠方よりとさらに近方よりの2種類準備していましたが、ご相談にてやや遠方よりのレンズをご希望されました。
左眼も手術は問題なく終了し、裸眼遠方1.5p、近方30cmで0.9pと、従来のファインビジョンの多焦点効果がきちんと発揮された良い視力に改善されました。もともと電子回路などを扱うお仕事をされているということでしたが、実に2年ぶりに眼鏡なしで遠近ともよく見えることに大変喜んでいただけました。
下図は右眼の術後写真ですが、通常パっと診察しただけではアドオンレンズが入っているかどうかは、我々眼科医も分からないレベルです。
<術後スリット写真>
この方のように既に高機能な高価な多焦点レンズが挿入されており、視力不良の原因が、多焦点の仕組みへの適応不良でなく、単に度数ズレによる場合は、アドオンレンズは入替よりも安全かつ正確、かつ経済的にもメリットがある、非常に有用なツールと言えます。
アドオンレンズは単焦点・乱視用・2焦点・3焦点と種類が増えておりますが、多焦点に関しては、スペック的には現行の通常の多焦点レンズより劣ります。それでも単焦点レンズの手術後に2期的に多焦点アドオンレンズを挿入することで、各レンズでのメリット・デメリットを体験でき、場合によっては多焦点アドオンレンズを安全に抜去できることは、多焦点レンズを安全に試したいと考える患者様にはお勧めできる手法と思われます。
次回は当院で読書距離に合わせて単焦点レンズを挿入した方(もともと近視眼)が、術後1年経過して「やはり遠方も眼鏡なしで見たい」との希望にて、多焦点アドオンレンズを挿入した症例を掲載させていただきます。
2021.12.31
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
白内障の手術後1ヶ月で遠視になってしまいました。そのためメガネなしでは何もできなった。
多焦点眼内レンズとメガネの組み合わせでは、矯正が困難でとても見えにくかった。- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
ホームページで事例を見て眼内レンズ交換例があったためAdd-onならば十分できるクリニックと判断しました。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
全くありませんでした。
- Q.手術後の見え方はいかがですか?
ほぼメガネなしで日常生活が送れるようになった(とても細かいものはハズキルーペなどを使用)。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
スケールの1mmの目盛がよく見えます。
仕事・楽しみも細かいものを見るので近方視は大事ですが、遠くの風景を見るのも好きです。
仕事は電気回路の設計です(計測器)。- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
Add-onレンズを選択。
レンズ入替はリスクが高く、レーシックは見え方が悪くなるという情報があったためです。- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
強く勧めます。特に白内障の手術後、近視・遠視になってしまった方のリカバリーには最適と思っています。