診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

世田谷区30歳男性 白内障手術症例#59 左眼:連続焦点型乱視用テクニスシナジー (右眼:7年前にテクニスマルチ)

  • 術前

    右眼(手術なし):テクニスマルチ
    遠見:1.0p(1.2)
    近見:1.0 (1.2)

    左眼
    遠見:0.1(0.4p)

  • 術後

    右眼(手術なし):テクニスマルチ
    遠見:1.0p(1.2)
    近見:1.0 (1.2)

    左眼
    遠見:1.5 (i.d.)
    近見:1.5p(1.5)

リクエストがあったため若い方の白内障手術症例第3弾です。

7年ほど前にアトピー性白内障による視力不良のため+4.0D加入のテクニスマルチを用いて私が大学病院勤務時代に右眼のみ手術をした方ですが、今度は左眼の視力低下と霧視が悪化したと久しぶりに受診されました。

右眼の手術をした頃は患者様はまだ20代であり、片眼手術かつ強度近視もあるため、単焦点レンズを使用するか多焦点レンズを使用するか、メリット・デメリット含めてじっくり御相談して多焦点レンズを選択されたことを覚えております。一般的にアトピー性白内障は手術の手技的な難しさに加え、チン氏帯脆弱周辺部網膜裂孔などの眼底病変合併例が多く、当時は今よりもアトピー性というだけで多焦点は不向きという強い風潮がありました。それでも、単焦点レンズを使用して20代で急に右眼だけ老眼になるのは受け入れがたく、数年先には右眼も手術することになる可能性があるとの理由から、+4.0D加入テクニスマルチでの手術をご希望され、幸い今現在も右眼の見え方には遠近とも満足しておられ安心しました。

そして今回は予想通り左眼にアトピー性の白内障が生じ、2018年8月には1.2あった矯正視力が0.3~0.4に低下し、下図のように特徴的な前嚢線維化が、瞳孔領はもちろん一部周辺の赤道部近くまで進行しておりました。通常加齢性白内障の進行は年に少しずつと年単位ですが、アトピー性外傷性白内障は進みだすと月単位で進行することは珍しくありません。

手術では、最初に白内障の表面(前嚢)を5.5mmほど円形にくり抜くのですが(前嚢切開)、その際に硬く線維化した部分が障壁となり、うまく前嚢切開を完成できずに合併症に陥ることもあります。また、通常視力には影響でませんが、5.5mmの外側周辺部分には線維化した前嚢、つまり一部混濁が残ることにもなるため、個人的には前嚢線維化が周辺部まで広がらないうちに手術をされた方が安全だと思われます。

下図はOPD scanⅢの結果ですが、左列下段の眼内の眼内高次収差は1.124µmと非常に大きくなり、右列上段の眼内収差による滲みのシュミレーション画像は、原型が分からないほどに滲んでいることからも、白内障による見えにくさは相当なものであると推測されました。また左列下段の角膜高次収差・中央列下段の角膜球面収差とも小さいため多焦点レンズの適応ありと判断できるほか、角膜の上下が突出する角膜直乱視が2.09Dあることより、より良い視機能を引き出すには乱視用レンズが必要であることも分かります(※OPD scanⅢの詳細は白内障手術症例㊽を御参照ください)。

OPD scan III

レンズ選択は、右眼はテクニスマルチを使用しているため、左眼には同じプラットフォームで乱視用もあるテクニスシナジーを使用することをお勧めし、患者様も迷いなく同意され手術となりました。

手術に関しては、線維化した前嚢部分も特殊な剪刀を使用することにより、前嚢切開は成功し、チン氏帯脆弱も強くなく無事手術を終了することができました。また、長眼軸長眼のわりに角膜が急峻(角膜屈折度が高い)なので術後屈折誤差が懸念されましたが、右眼手術時の術後屈折誤差を考慮して左眼のレンズ度数を選択したため、左眼は目標屈折度との誤差もほとんど生じませんでした。

術前0.1だった遠方裸眼視力が術後は遠方1.5・近方1.5pと大幅に改善し、曇っていた左の視界がすっきりしたと大変満足していただきました。下図は術前・後の眼底写真ですが、術前には詳細不明な写真でしたが、術後は網膜血管まできれいに確認できるようになりました。同様に、患者様の見え方も非常に改善したことになりますし、以降は眼底検査も正確に行えるようになりました。

個人的には、右眼のテクニスマルチと左眼のテクニスシナジーの見え方の違いに興味がありましたので、失礼ながら術後に色々と細かい点を患者様にお伺いさせていただきました。まず驚いたのは、テクニスマルチ+4.0D加入なので、スペック的には現行の多焦点レンズの中では一番加入が強く近方30cmに焦点が合うレンズなのですが、患者様によると、左右とも近くの見え方はほぼ同じとのご回答でした。また、遠方~中間の見え方はシナジーの方がよく見え、テクニスマルチに比べどの距離も全体的に明るい感じだけれども、ハロ・グレア・スターバーストなどの異常光視症はシナジーの方が強いとのことでした。ただし、片眼ずつ隠して確認してようやく分かるといったレベルの違いであり、普段両眼で生活している場合は、左右の見え方の違いは全く気にならないと言われていました。

右眼も角膜乱視がありましたが、当時大学病院で使用できる乱視用多焦点レンズがなかったので、強主経線上切開でテクニスマルチを使用しての手術でした(左眼の手術も強主経線上の上方からの切開でしたので、ホリの深い患者様には顎を上げた少々苦しい姿勢での手術となっております)。そのため、乱視用シナジーを使用した左眼よりも、右眼の残余乱視は大きい結果となっていることにより、右眼のテクニスマルチの視力が弱い可能性はあります。
よって一概には言えませんが、+4D加入のテクニスマルチ連続焦点型のテクニスシナジーの近方の見え方がほぼ同じと感じていることからも、テクニスシナジーは評判どおり近方を重視した方には向いているレンズであると思われました。また、テクニスマルチとテクニスシナジーとで迷っており夜間の異常光視症さえ気にしない方であれば自信を持ってテクニスシナジーをお勧めできると感じさせてくれた1例でした。

2022.01.01

Q.手術前はどのような状態でしたか?

日中は眩しく目を閉じて生活していた。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

以前、右眼の手術を受けていたから。

Q.手術中に痛みはありましたか?

小さな痛みはあった。姿勢が辛かった。

(少しでも乱視を減らす目的で、強主経線上の上方から切開手術を行ったため、ホリの深い患者様には顎を上げた無理な姿勢をお願いしました。ご協力より、おかげさまで合併症なく最善の結果となりました。院長)

Q.手術後の見え方はいかがですか?

全体的にはっきり見えるようになった。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

両眼で見るようになり効率が上がった。
仕事:ITコンサルタント

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

単焦点にする理由がないため。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧める。