診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

杉並区50代男性 白内障手術症例#94 -3.0D近視眼:回折型5焦点レンズ:Intensity(インテンシティ) ~パンオプティクスプロとの違い~

  • 術前

    右眼
    遠見:0.1(0.6)
    近見:0.6(0.7p)

    左眼
    遠見:0.1(0.6)
    近見:0.3(0.4)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.2(1.5p)
    近見:1.5

    左眼
    遠見:1.5(i.d.)
    近見:1.2(1.5)

目次

概要

これまで症例掲載がありませんでしたので、自費診療レンズになりますが、PanOptix Pro(パンオプティクスプロ)のスぺックに近しい回折型5焦点レンズであるIntensity(インテンシティ)の症例を掲載させていただきます。

2年ほど前から白内障による見えにくさを自覚されていたとのことですが、2025年2月にコンタクト併設眼科にて白内障を指摘され、手術相談にて当院初診となった方です。

術前所見・希望

両眼とも皮質混濁を主体とした白内障をきたしており、両眼とも矯正視力0.6まで低下しておりました。-3.0D程度の近眼でしたので近方裸眼視力は比較的良好かなと思いましたが、右眼0.6~0.7/左眼0.4と低下しておりました(下図赤枠)。

術前アンケートでは多焦点レンズをご希望されており、重視する距離は中間>近方>遠方の順でしたが、趣味で釣りやゴルフをされており、お仕事ではパソコン使用が多いとのことでした。特に釣りでは30cm程度の近距離もみたいとのことで、手元が見えて光のにじみ(夜間不快光視現象)がより少ないレンズをご希望されておりました。

以前からお伝えしているとおり、手元が見える(ピントの幅が広い)ことと、夜間異常光視現象の少なさは相反することをご説明したうえで、手元の重要性を重視してまずは選定療養の対象であるFineVision HPをご提案させていただきました。

レンズ選択と手術

その後、レンズに求める希望の聞き取りを重ねているうちに、自由診療も視野に入れているとのことでしたので、確実に30-40cmが見え、回折型レンズの中では最高レベルの高いコントラストを誇り、比較的ハロ・グレアといった夜間不快光視現象も少ない5焦点レンズであるIntensity(インテンシティ)を候補として検討いただくこととしました。手元の30cmが見える必要のある釣り~中間のパソコン~遠方のゴルフと、シームレスにあらゆる距離を見る必要のあるライフスタイルであることを再確認いただき、最終的にインテンシティでの手術をご希望されました。

白内障の程度はそれほど左右差がありませんでしたが相談の結果、右眼が優位眼であり、自覚的にも検査結果的にも近方視力がより不良である左眼から手術ということで同意いただきました。

まず左眼の手術に関しては、いつものようにORAシステム術中波面収差解析結果を参考にして、事前に準備した2つのレンズのうち遠方よりのレンズを選択して、長期安定性のためのカプセルテンションリング(CTR)も挿入して術中特記事項もなく終了しました。

術後経過

左眼の術後は下図のように屈折誤差もなく、翌日から遠方1.5/近方1.2と非常に良好な遠近裸眼視力に大変喜んでいただけました(下図青枠LV

次に右眼の目標度数設定に関してですが、眼内レンズは0.5D刻みでしか作製されていないため、左眼と小数点以下まで同様の屈折度数にすることは不可能です。つまり0.1~0.3D程度ほんのわずかな差は必ず生じるため、患者様にはいつもその旨お伝えし、「どちらかと言えばわずかに遠方と近方とどちらが良いか」を事前に確認してレンズ度数選択をしております。この方の場合は、個人的には左眼の近方視力はじゅうぶんかと思っておりましたが、右眼はやや近方よりにしたいとのご希望でしたので、最終的には左眼に使用したレンズと同パワーのレンズを右眼に使用して、白内障になる以前にもともとあったであろう左右差をそのまま残した自然な左右差のレンズで同意いただきました。当院にはyoutubeなどの知識で、優位眼をより遠方にしたいと言われる方が来院されますが、ピントに関しては、必ずしも優位眼を遠方にする必要はありません。実臨床ではもともと近眼が強い(=眼軸長が長い)眼の方が優位眼であることも少なくありませんし、術前後で左右差が逆転するよりも、もともとの左右差に従って目標設定してあげた方が術後の違和感は少なく済みます。一方、ミックスアンドマッチでは優位眼に焦点深度拡張型(EDOF)レンズを使用した方が、夜間不快光視現象は緩和されますので、基本的には優位眼に回折型レンズを使用することは推奨しません。

右眼をどの程度近方に寄せるかに関しては、下図黄枠内のように+0.25D近方にずらしたシミュレーションでは、遠方1.2/近方1.5pとなりますが、+0.50D近方にずらすと、近方40cmよりも30cmの方が見やすくなる一方で、遠方視力は0.7まで低下してしまいましたので、0.25D以内の近方よりを目標とすることに同意いただきました。

視力推移

右眼手術後の説明(クリックで開く)

右眼の手術に関しても同様に術中波面収差解析を行ったところ、術前検査と同様の左右差が表示されましたので、安心してレンズ度数を決定することができ、CTRも使用して手術は問題なく終了しました。

右眼も術翌日から遠方1.5p/近方1.2pと良好な裸眼視力となり、術後1ヵ月には遠方1.2/近方1.5狙い通り左眼よりもわずかに近方視力が良好となり、患者様の感覚的にも近方が見えやすいと、眼鏡なしで遠方~近方までシームレスに見える生活に大変喜んでいただけました(図青枠。回折型のレンズでは目標度数をシフトさせることは望ましくないとの意見もありますが、この方のように過度でなければレンズ度数をシフトさせた分だけピントの位置もシフトしますので、片眼の物足りない点をカバーすることができます。例えば術後屈折度が+0.25Dと-0.25Dでは遠方視力はほぼ同様ですが、近方に関しては-0.25Dの方がはるかに良く見えます。

-3.0D近視眼での注意点

この方のように、術前の屈折度が-3.0D=33cmにピントが合う中等度の近眼の方が多焦点レンズを選択される場合は、術前説明とレンズ選択には特に注意が必要となります。なぜなら、30cmにしっかりとピントが合う多焦点レンズはほとんど存在しないからです。つまり術前に簡単に見えていた距離が、手術により見えにくくなる可能性があるということになり、実際に術後トラブルで当院に受診される方の中には、「手術前に簡単に見えていた近距離が見えにくくなった」ことを不満とされる方も少なくありません。もちろん白内障による混濁が除去されることで、視機能は改善することが多い一方で、選択によっては近方のピントの位置が犠牲になる可能性がある点について、事前の説明と理解が必須です。患者様には、術前より術後に劣ったと感じる点が1つでもあると不満につながることがあります。この方は術前の近方視力もしっかりと低下していたため、満足度の高い結果をもたらすことができました。一方で、術前にご自分の日常の矯正方法下と裸眼での近方視力の測定・評価が行われないまま、多焦点眼内レンズの種類・度数を選択してしまうことは、術前の期待値とのギャップが生じて術後トラブルの大きな原因となり得るため、主治医との再相談をお勧めします。

インテンシティとパンオプティクスプロ

経験上、これまでの通常のパンオプティクスではピッタリ合わせても、近方視力1.5まではなかなか出ません。インテンシティ5焦点なのか3焦点プラスなのかは議論の余地がありますが、スペックとしての焦点距離は、遠方/133cm/80cm/60cm/40cmです。そしてその特徴は、パンオプティクスのように遠方を中・近に割り振るわけではなく、中間80cmを遠・近に割り振ることで近方の光エネルギー配分を増やしていることが、近方の良好な視力に貢献しているのではと思われます。

しかしながら、インテンシティは光エネルギーロスを6.5%に減弱することで、不要な光の散乱を抑えてはいるものの、回折構造レンズ全面に及ぶため、夜間異常光視現象は避けられません。実際に当院では、他院でインテンシティを用いて手術された方の術後waxy vision改善のため、入れ替え手術をした経験もあります。一方、パンオプティクスプロも光エネルギーロスは6%と回折型レンズでは最高レベルに低い上に、回折構造レンズの中心4.5mm内に限局されていることを考えると、ハロ・グレアなどの夜間異常光視現象がさらに抑えられていることが期待されますが、回折ステップの数も考慮する必要があります。インテンシティ12ステップに対しパンオプティクスプロ15ステップと多く、回折ステップの密度もより大きくなりますので、一概に回折構造の範囲だけで評価するのは難しいと思われます。いずれにしても、インテンシティは、このわずか12ステップの回折構造で5焦点を生み出している点が、大きな特徴となっています。すでに当院ではパンオプティクスプロの使用も開始しておりますが、夜間異常光視現象の差異はそれほどわからないものの、術後の近見視力の立ち上がりは前モデルの通常のパンオプティクスよりも早い印象であり、遠方1.5/近方1.5pと大変良い近方視力結果を得ております。その他、他院で通常のパンオプティクスで手術されている方の、もう片眼にパンオプティクスプロを使用して手術する予定も控えておりますので、また随時情報をアップデートさせていただきます。

インテンシティとパンオプティクスプロの比較

パンオプティクスプロの話に逸れてしまいましたが、インテンシティは回折型レンズの中ではコントラストも高く、眼鏡なしで全距離を見たい方、特に確実に近方を見たい方には向いているレンズです。また以前から指摘している通り、スペック上はパンオプティクスプロと類似点が多いため、最後に両者のスペックの比較表を掲載しておきますので、ご興味のある方は参考にされてください。なお、まもなく国内でも疎水性アクリル素材のIntensity HPが使用できる見込みです。

比較項目
Intensity
インテンシティ
PanOptix Pro
パンオプティクス プロ
構造
5焦点
(Penta-focal)

独自のDLUアルゴリズムによる回折型3焦点プラス≒5焦点レンズ

3焦点
(Tri-focal)

ENLIGHTEN NXTテクノロジーによる回折型3焦点レンズ

回折ステップ数と範囲 12steps/6mm(光学部全面) 15steps/光学部中心4.5mm
素材・色 25%親水性アクリル
色:ナチュラルイエロー
透明に近い色調のため、彩度・鮮明度や夜間の明るさを重視する方に適しています。
Clareon (疎水性アクリル)
色:イエロー(着色あり)
天然の水晶体に近い色調で、有害な青色光をカットします。最新素材により長期的な透明度を維持します。
加入度数 +1.5D / +3.0D
(中間域に2つの補正焦点を配置)
+2.17D / +3.25D
(実用的な中間と近方に特化)
焦点距離 遠方、133cm、80cm、60cm、40cm
(5つのポイントで連続的にカバー)
遠方、(120cm)、60cm、40cm
(スマホ・PC作業に最適な距離を強調)
光利用率    93.5%
(光散乱6.5%)
   94.0%従来のPanOptixは88%
(光散乱6.0%:従来のPanOptixは12%)
エネルギー配分 遠方 42% : 中間 25.75% : 近方 25.75%
(全域にバランス良く分散)
遠方 48% : 24% : 近方 24%
(遠方の鮮明度を重視した設計)
作成度数 +10.0D 〜 +30.0D
(乱視用:Toric対応)
+6.0D 〜 +30.0D
(乱視用:Toric対応)
特徴 切れ目のない自然な視界:焦点間の視力低下が少なく、室内での家事やデスクワークなど、視線移動の多い方に適しています。 鮮明なコントラストと高い満足度:光の散乱を極限まで抑え、特にスマホ(40cm)やPC(60cm)などのデジタル作業に強いのが特徴。

 

2026.01.21

Q.手術前はどのような状態でしたか?

ゴルフで100Y先のボールが見えない。
トンネル等の運転が怖い。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

運転に支障が出た為。
ゴルフに支障が出た為。

Q.手術中に痛みはありましたか?

手術後の目薬。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

遠くも近くも予想より良く見えます。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

安心して運転できそうです。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

出来るだけ広範囲を見たかったから。
(車、ゴルフ、釣り)

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

もちろん勧めます。
友人から勧められたから。