
- 多焦点眼内レンズ
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清瀬市70代女性 白内障手術症例#96 遠視眼 (焦点深度拡張型=EDOF テクニスピュアシー標準症例)
昨年7月よりTECNIS PureSee(テクニスピュアシー)を先行使用しておりましたが、当院で手術予定の患者様からピュアシー症例の掲載リクエストを直接いただきましたので、今回は、術後半年以上経過を確認したうえで、実臨床における注意点も含めてご紹介いたします。なお、今回はあえて特殊性のない、標準的な症例を選択しております。
患者様は、すでに前医で白内障を指摘されており、手術を急いだほうが良いかどうかも含め、進行状況を確認したいとのことで、2025年3月に紹介状なしで初診されました。両眼とも遠視眼で、皮質混濁を主体とした白内障を認め、矯正視力も右眼0.6/左眼0.7pまで低下しておりました。単焦点レンズで手術を行ったとしても、少なくとも現在より劣る点はなく、手術によって生活の質(QOL)の向上が期待できる状態でした。
ただし白内障は緊急疾患ではありませんので、当院の方針として手術を強く勧めることはせず、ご本人のご希望に応じて、いつ手術しても良いのではとお伝えしました。前医でも手術は可能とのことでしたので、当院をご希望であれば再診時に改めてご相談いただくこととして、初回診察は終了しました。
その2か月後の5月に、やはり手術をご希望とのことで再診され、適応があれば多焦点レンズでの手術を検討したいとのお話がありました。角膜形状解析では高次収差も低値であったため、屈折誤差さえ生じなければ、眼球側の条件としては、どの種類のレンズでも多焦点レンズ本来の性能が十分に発揮され得る眼であることをご説明しました。そのうえでアンケート用紙をお渡しし、ご本人の優先順位に沿ってレンズの種類を選択していただくこととしました。
アンケートでは「近方は必要時に眼鏡をかけてもかまわないので、くっきり見たい」、「距離の優先度は遠方が1位で、趣味のテニスを眼鏡なしで行いたい」とのご希望でした。ピントの幅よりも見え方の質(クオリティ)を優先したレンズとして、焦点深度拡張型(EDOF)の、テクニスピュアシーとクラレオンビビティーから選択していただく方針としました。
この2つのEDOFレンズの選択は、最終的には個々の患者様の状況によりますが、この方の場合、白内障になる前は右眼の方が左眼よりやや近視であったこと(右眼の眼軸長が左眼より0.4mm長いこと)から、左眼で満足できた場合には、可能であれば右眼はやや近方寄りにしたいとのご希望がありました。当初から右眼を近方寄りに設定することを前提とするのであれば、屈折誤差耐性がある=近方に寄せても遠方視力が低下しにくいテクニスピュアシーの方が適しているのではないかとご提案し、ご同意いただきました。
目標屈折度設定の前に、ピュアシーの度数設定の特徴について少し触れておきます。以前、その構造に由来した度数選択の特徴について掲載したように、ピュアシーには確かに上記のような屈折誤差耐性があります。それゆえに、この8か月の使用経験から、目標度数選択には、通常の多焦点レンズよりも簡単な点と難しい点(個人差)があると感じています。
まず簡単な点としては、遠方視力1.2が得られるようにレンズ度数の選択をすることに関しては、単焦点レンズ以上に簡単=許容度が高いことです。すなわち、多少の度数ズレが生じても遠方視力が保たれやすく、患者様にとって安全なレンズである点はメリットとと言えますし、術者にとっても扱いやすいと言えます。一方で、当院に来られる患者様の中には、目標度数を「ぴったりゼロにしてほしい」と、レンズ度数計算表から自ら度数選択をされようとする方もおられますが、ピュアシーの場合、レンズ度数計算表で0.0Dを目標としたレンズを選択すると、多くの症例でほぼ確実に軽度遠視になる傾向があるので注意が必要です。もちろん、その結果として遠方視力が1.2以上見えるかも知れませんが、完全矯正でプラスレンズ(ごく軽度の老眼鏡)が必要になるということは、もっと適切な度数選択をしていれば、遠方視力を落とさずに、さらに近方まで見えるようにできた可能性があったことを意味します。最適な目標度数は個々の条件により異なりますので、SNSなどの情報だけを頼りにご自身で度数選択まで行うことはお勧めしません。あくまで、ご自分のご希望を主治医に正確に伝えたうえで、専門家である医師の判断に委ねていただくことをお勧めします。
以上をふまえて左眼の度数選択に話を戻します。この方は、白内障になる前は正視であった左眼については、遠方ピッタリを目標とし、下図左側のとおり、-0.22D(1/0.22=4.55m)を目標とした+21.0Dのレンズと、-0.56D(1/0.56=1.79m)を目標とした+21.5Dのレンズの2種類を準備して手術に臨みました。

左眼の手術に関しては、水晶体摘出後に、いつものように術中波面収差のORAシステムの測定値をもとに度数選択を行いましたが、今回は自覚屈折度として遠方ピッタリの0Dを目標として、+21.5Dのレンズを使用しました。つまり術前検査では-0.56D、下図術中測定値では-0.87Dもの近視が残る計算のレンズとなります。

それでもなお、術翌日の自覚屈折度は、下図8/22のように+0.375Dとわずかに遠視となり、遠方視力は1.2と良好でしたが、近方視力は0.5と、スペックから期待される値に比べるとやや不良でした。+3.25Dのレンズを使用することで近方視力が1.2と改善したことから、この時点では、まだピュアシーの近方加入部分をうまく使用できていない印象でした。

続いて、1週間後に右眼の手術を行いました。左眼の他覚屈折度は-1.375Dでしたが、自覚屈折度では+0.25Dと、まだわずかに遠視が残存しており、当初の予定通り右眼はやや近方に寄せることをご希望されました。そこで、右眼の手術直前に、+0.38Dおよび+0.75Dだけ近方寄せした場合の見え方を左眼でシミュレーションしたところ、上図青枠のように、0.75D寄せると近方視力は0.9pまで改善する一方で、遠方が見えづらいため、遠方0.8/近方0.8pとなる見込みの、0.38Dの近方寄せをご希望されました。
なお、当院では以前より行っておりますが、このように先行して手術を終えた眼でシミュレーションを行い、僚眼の適切な目標屈折度を決定する方法には実は名称があり、FEST(Fellow-eye self-Tuning)法と呼ばれています。

このFEST法の結果から、右眼の目標度数は-0.56-0.38=-0.94D程度となるように、上図左側の-0.90D(1/0.90=1.11m)を目標とした+20.5Dのレンズを使用する予定で手術に臨みました。下図のようにORAシステムによる術中測定の予測度数も-1.12Dであり、術前検査および左眼の術中測定値と同様の左右差を示していたため、予定通りのレンズを自信を持って使用し、問題なく手術を終えることができました。


術翌日は遠方視力1.5pでしたが、近方視力はやはり0.5p程度とやや不良でした。しかしその後、左眼の経過と同様に近方視力は徐々に改善し、最終的には遠方1.2/近方0.9程度となりました。術前のFEST法によるシミュレーションほど遠方視力を低下させることなく、かつ近方視力もより良好な結果に、患者様にも満足していただけました(下図黒枠)。

今回はご要望にお応えして、ピュアシーの標準的な症例を提示させていただきました。以上のように、ピュアシーは遠方視力を確保するという点では単焦点以上に扱いやすいレンズと言えますが、その近方視力についてはビビティよりも個人差が大きい印象があります。実際、お気づきのように、上図自覚屈折度と下図他覚屈折度との差も大きく、かつ一定ではないことも、最適化が難しい一因となっています。

そのため、遠方視力を落とさずに近方視力を向上させるための適切な度数差も一律ではなく、個人個人での最適化が特に重要なレンズと感じています。この点が、前述した「難しい点」すなわち個人差の大きさに当たります。通常は優位眼・非優位眼や屈折度の差を考慮しつつ、より白内障の進行した眼を先に手術を行うことが多いですが、ピュアシーの場合に限っては、条件が許せば、まずは遠方視力を確保したい眼を先に手術したのち、FEST法にて僚眼の度数設定を行うよう当院では工夫しております。その理由は、近方寄せを行わなくても、遠方・近方ともに十分満足される患者様が一定数おられるためです。もし最初から近方寄りに設定してしまえば、本来はより自然な見え方で満足できた可能性を失ってしまうことになります。当院では、その可能性をできる限り残したうえで、個々の患者様にとって最適なバランスを見極めることを重視しております。
そして、個々の患者様にとって適切な度数差は、片眼の術後経過を見て初めて分かる部分があります。残念ながら術前に予測することができません。つまり、その屈折誤差耐性を最大限に活用するという意味では、ピュアシーは両眼同日手術には最も向かないレンズの1つと、当院では考えております。もちろん両眼とも遠方+αが見えれば十分に満足という方にとっては、多少の度数ズレが生じても遠方視力が確保されやすいため、両眼同日手術でも安全性が高いレンズといえるかも知れません。
本症例の左眼は、あくまで自覚屈折度として0Dを目標とした場合のテクニスピュアシー症例です。レンズ度数計算表の0Dを目標としたレンズを選択した場合は、遠視になり近方40cmの視力は0.5以下になっていたと思われます。眼光学的には、屈折度を0Dに近づけた方が、光エネルギーを最も有効に利用でき、コントラストも最大化し、defocus(ピントずれ)による異常光視症を最小にできるかも知れませんが、その代償としてピュアシーの特徴である屈折誤差耐性(≒ピントの幅)のメリットを失う恐れもあります。自覚的完全矯正でプラスレンズが必要になる、すなわち残余屈折として遠視になっている時点で、それを真の意味で0Dピッタリとみなすことはできません。
白内障手術は、技術的に正確で安定していることはもちろん重要ですが、患者様が実感できる差を生み出すうえで最も重要なのは、患者様のご希望に合わせて、いかに正確な度数選択を行えるかだと感じています。そして、そこが術者側にとって最も難しい点でもありますので、患者様がご自身にとって適切な度数選択が分からないことは当然です。当院では、優位眼・非優位眼、眼軸長・角膜屈折度の左右差、術前視力・屈折度の左右差などを考慮し、複数の眼軸長測定器と計算方法を用いて、根拠に基づいた適切な度数選択をご提案しております。繰り返しになりますが、テクニスピュアシーは「遠方視力を確保するという点では単焦点レンズよりも許容度が高い一方、近方視力をどこまで引き出せるかという点では個々の最適化が重要」なレンズと思われますので、ぜひ最初からご自身だけで決めようとせず、まずはお気軽にご相談ください。
2026/03/11
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
左眼はライトが2つ点灯したように明るく感じた。
- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
友人から良い先生と紹介された。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
全然なし。
- Q.手術後の見え方はいかがですか?
明るくなり、テレビがくっきり、新聞の文字もくっきり見えるようになった。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
眼鏡なしで読書がしやすい。室内のほこりや汚れが良く見えるようになった。
- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
テニスも楽しみたいし、眼鏡なしで読書もしたいため。
- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
お勧めします。
最新の技術を持った先生で、器械も最新だ。


