
- 多焦点眼内レンズ
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杉並区60代女性 白内障手術症例#97 強度近視・緑内障眼(焦点深度拡張型=EDOF:テクニスピュアシー)
今回もリクエストにお応えして、TECNIS PureSee(テクニスピュアシー)の症例ですが、強度近視症例をご紹介します。
患者様は、以前より他院で初期の緑内障、もしくは視神経低形成として点眼加療を受けており、転居に伴って、2024年3月に紹介状持参で当院を初診されました。
前医からの点眼を続けつつ、定期的に視野検査を行いながら経過をみておりましたが、眼圧はもともと低く、視野異常の進行やも視神経線維層の菲薄化の進行も全く認めませんでした。そのため、紹介状にも記載があったように、緑内障ではなく視神経低形成の可能性も考えられ、点眼を増やす必要性もなく経過観察を続けておりました。
その後、強度近視ということもあり白内障が徐々に進行し、矯正視力は比較的保たれていたものの、霧視やコントラスト低下が気になるとのことで、2025年9月に手術を予約されました。
緑内障加療中でも、多焦点レンズを希望
既に緑内障として治療されていたため、当初は当然、単焦点レンズでの手術を想定しておりましたが、ご本人からは、「可能であれば多焦点レンズを使いたい」とのご希望がありました。
術前アンケートでは、距離の優先度は、近方>中間>遠方であり、
「すごく遠方を見るときは眼鏡をかけても構わないので、日常は眼鏡なしで過ごしたい」
を選択されていましたので、もし緑内障がなければ、近方・中間がしっかりと見える3焦点以上のレンズを第1候補にしたいところです。
しかし本症例では、今後もし緑内障が進行した場合の感度低下も考慮する必要がありましたので、光エネルギーロスがほとんどない多焦点レンズである、
焦点深度拡張型(EDOF)の
・クラレオンビビティ
・テクニスピュアシー
のいずれかをお勧めしました。
ただし、EDOFとなると守備範囲は基本的に遠方~中間です。そのため、患者様の「近くも眼鏡なしで見たい」というご希望をそのまま満たすものではありません。
そこで今回は、非優位眼を近方寄りに設定して中近視力を確保する方針として、最初から近方寄りにする前提であれば、遠方視力が低下しにくい、テクニスピュアシーの方が適しているのではないかとご提案させていただきました。
緑内障同時手術を希望
さらに今回は白内障手術と同時に、眼内線維柱帯切開術(トラベクロトミー眼内法)を行うこともご提案しました。
その理由は、
・術後に点眼が不要になる可能性があること
・同時手術により手術時間を短縮できること(白内障手術+1~2分)
・費用面でもメリットがあること(白内障手術代が半額になること)
を期待できるためです。
患者様は、もともと強度近視のコンタクトレンズユーザーでしたが、当初の希望と異なり裸眼で近方が見えなくなることを心配されておりましたので、まずは非優位眼である右眼から、近方寄りで手術を行う方針としました。
まず右眼を近方寄りに設定
右眼の目標度数設定ついては、症例No.96でも記載したとおり、通常は遠方合わせの眼を先に手術した方が、個々の患者様に適した左右差の調整はしやすくなります。そのため、本症例のように先に近方確保を優先する場合は、適切な度数設定の難易度が高くなります。
左右差がつきすぎず、しかも満足できる近方視力を確保できるちょうど良い度数を選ぶには、さまざまな要素を総合的に考慮して決定する必要があります。この部分は患者様ごとに異なり、最終的に医師側が決定すべき内容ですので、詳細はここでは割愛します。

右眼の手術では、上図術前検査結果(左側)赤枠内の
・-0.59D目標の + 9.5D
・-0.91D目標の +10.0D
・-1.23D目標の +10.5D
の3種類のレンズを準備しました。
最終的には、下図ORAシステムでの術中検査による予測屈折度が-1.12Dとなる、+10.0Dのピュアシーを選択し、トラベクロトミー眼内法も行い、手術は問題なく終了しました。

上記のように、かなり近方寄りを目標とした度数のレンズを使用したものの、術翌日の裸眼視力は、
遠方1.5/近方1.0pと、予想よりやや遠方寄りでした。
しかし、術後4日目には期待どおりにやや近視化し(通常、経過とともに近視化します)、
遠方0.9/近方1.2となり、患者様にも、術前に目標としていた近方の見やすさにご安心いただけました。
左眼はFEST法で最適な左右差を調整
続いて左眼です。
右眼の近方視力に十分満足されたため、左眼はやや遠方寄りに設定したいとのことでした。そこで左眼は、症例No.96と逆に、マイナスレンズ(遠方にずらすレンズ)を用いたFEST(Fellow-eye self-Tuning)法で最適な左右差を検討しました。
当院ではFEST法による確認を、
・術後4日目
・術後1週間後(=僚眼手術直前)
に行い、患者様ごとに満足できる左右差を最終決定しています。

本症例では、シミュレーション上、遠方1.5/近方0.7となる、0.50D遠方にズラす度数を選択されました(上図赤枠)。
左眼手術では、術前検査(上図度数計算表右側青枠)から
・-0.19D目標の+9.0
・-0.50D目標の+9.5D
の2種類を準備しました。
術前検査だけ見ると-0.50D目標の+9.5Dを使用するつもりでした。しかし最終的には、下図のように、ORAシステムでの予測屈折度が-0.52Dとなる、+9.0Dのピュアシーを使用し、こちらもトラベクロトミーを追加して、手術は問題なく終了しました。長眼軸かつ角膜屈折度がやや高値であることによる近視ずれのリスクと、別の器械による術前検査では、+9.0Dの目標屈折度が-0.60Dであったことも考慮しての度数選択です。

この左眼は、遠方ぴったりの、通常のピュアシーの使い方をしたことになります。
術翌日の裸眼視力は、
遠方1.2/近方0.7p
術後4日目にはシミュレーションどおりに、
遠方1.5/近方0.8
術後3ヵ月には、
遠方1.5/近方0.7
で安定し、下図のように、両眼での裸眼生活に満足していただくことができました。


緑内障についても、点眼フリーを達成
最後に緑内障手術による眼圧下降についてですが、下図のように、術後は緑内障点眼を休止しているものの、点眼使用時と同等の眼圧を維持できています。そのため、患者様には点眼フリーになれたことにも大変喜んでいただけました。

トラベクロトミー眼内法では、術前眼圧や併用手術の有無によりますが、おおむね4〜10 mmHg程度の眼圧下降が報告されています。特に白内障手術併用例では4〜6 mmHg前後となることが多いですが、手術の目的が房水(眼内の水)の流出抵抗を減らすことであるため、理論上、房水の排水先である上強膜静脈圧(約8〜11 mmHg)以下には下がりません。そのため、他にも複数の緑内障手術法が存在します。
手術・点眼以外の眼圧下降治療としては、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)もありますが、白内障単独手術だけでも1.5〜2.5 mmHg程度の眼圧下降が期待できます。そのため、通常は白内障を予定している方には、術前にSLTを行うことはありません。まず白内障手術の効果をみてから追加治療の必要性を判断する方が合理的なことが多く、当院では、既に緑内障点眼を使用している方には、費用面でのメリットをお伝えして、トラベクロトミー眼内法の併用も選択肢としてご提案することがあります。実際、白内障手術+緑内障手術の併用は、白内障手術単独より眼圧や点眼本数の面で有利とする報告があります。
まとめ
今回は、緑内障加療中の強度近視眼に対し、非優位眼を近方寄りに設定して先行手術を行い、テクニスピュアシーを使用した症例を掲載させていただきました。
テクニスピュアシーは、つい先日の2026年3月12日に、ようやく米国FDAに承認されたとの知らせを受けました。米国では、EDOFレンズは独立したカテゴリであり、見え方の質など、3焦点に比べ定量化が難しい基準をクリアする必要があります。承認が遅れた理由の1つとして、視機能面における患者間の個人差も関係していた可能性があるのではないかと考えますが、これはあくまで私個人の推測にすぎません。
いずれにしても、テクニスピュアシーのラボデータと実臨床データがFDAに認められたこととなりますので、自動車移動が多く(日本より夜間異常光視症の影響が大きい可能性があり)、また、読書距離も異なる(体格差から日本人よりも遠めである可能性がある)と考えられる、米国での使用報告や満足度調査結果についても、引き続きアップデートさせていただきます。
2026.03.15
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
白内障よしての自覚は特になかったのですが、術後とても視界が明るくなったので、随分くすんで見えていたのだとびっくりしました。
- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
多焦点レンズを入れて視界を回復したかったから。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
押される感じはあったが、痛みは特に感じなかった。
右眼の緑内障の手術に移ってから、一度チクっと痛みがあったが、その際もDr.からチクっとするかもと言われたので安心だった。- Q.手術後の見え方はいかがですか?
遠くが見えるようになった。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
普段の生活の中でも毎日眼鏡やコンタクト
の着用をせず過ごせるのはとても楽です。今まで近視遠視とも強く、ピントをどこにも合わせることができなかったのが、今は快適です。近くも老眼鏡を使えば問題なく見えます。- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
長年の目の不具合から解放右されたかった。
- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
勧めます。
県外から転居し眼科を探していましたが、貴院のHPより術例が詳しく記載されており、手術を視野に入れて選びました。


