
- 多焦点眼内レンズ
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板橋区70代男性 白内障手術症例#91 ハイブリッドモノビジョン(左眼テクニスアイハンス→右眼テクニスピュアシー)
テクニスピュアシーの一般発売後3か月経過しますが、学会含めあまり実臨床に則した目標度数設定などの情報が出ていませんので、まずはピュアシーのチャンピオン症例を掲載させていただきます。
左眼の白内障による視力障害のため、かかりつけの他院よりの紹介状持参にて2025年2月に当院初診の方です。
紹介状のとおり、左眼のみ進行した後嚢下白内障により矯正視力も0.3に満たない状態であり、ご本人も初診時から手術をご希望されました。左眼に比べれば軽度ですが右眼も白内障による視力低下をきたしておりましたので、ご相談の結果、年齢も考慮し左眼→右眼の両眼の白内障手術を予約されました。
術前アンケートでは、焦点の優先度は遠方>中間>近方、「眼鏡をかけてもかまわないのでクッキリ見たい」を選択されており、ご自身の性格でも完璧主義にチェックされておりましたので、単焦点レンズを中心に検討させていただくこととしました。ご本人は多焦点レンズも含めて検討しているけれども、回折型レンズは避けたいとのことでしたので、見え方のクオリティを落とさずに少しでもピントの幅を広げたいと、最終的には単焦点プラス(enhanced monofocal)のテクニスアイハンスと焦点深度拡張型多焦点レンズのクラレオンビビティで迷われ、まず左眼はアイハンスをご希望され、右眼は術後の近方の見え方次第で、アイハンスのミニorマイクロミニモノビジョンにするか、ハイブリッドモノビジョン(片眼単焦点・僚眼多焦点)にするか検討することとなりました。
次に目標度数の設定ですが、詳しく伺うと焦点距離の優先度は遠方が最も高いとのことでしたが、夜間運転機会もなく、無限の遠方よりは少しでも中間~手元が見えることをご希望されました。眼軸長は23.67mmと平均的でしたが角膜屈折度が42.83Dと通常よりもややフラットでしたので、遠視ズレの術後屈折誤差リスクを考慮して、区分屈折率による眼軸長測定器であるARGOS(アルゴス)との結果も比較しつつ、遠方重視で目標設定を行いました。
左眼の手術に関しては、片眼のみ進行した白内障でしたので、外傷によるチン氏帯脆弱化にも備えて手術に臨みましたが特にトラブルなく、ORAシステムによる術中波面収差解析結果を参考に使用レンズ度数を決定して手術は問題なく終了しました。
術後1週間での裸眼視力が遠方1.5p/近方0.7となり、予想よりも良好な近方視力に喜んでいただきましたが、右眼は、左眼と同じアイハンスをやや近方にずらすマイクロモノビジョンをご希望されました。
そして右眼手術となりましたが、手術当日にクリニックに向かう途中に体調不良になられたとのことで、予期せず右眼の手術は4か月先に延期となりました。左眼の術後経過観察中、裸眼視力はやや不安定でしたが、概ね遠方1.2p~1.5p/近方0.7p~0.7で推移しており、左眼よりも近方が見たいとの希望は一貫しておりました。
また、その経過観察期間中に焦点深度拡張型(EDOF)のテクニスピュアシーが先行使用できるようになったため、アイハンスのマイクロ~ミニモノビジョンでは満足できない場合は、ハイブリッドモノビジョンとして、ビビティでなくアイハンスと同じテクニスプラットフォームのピュアシーも選択肢としてご提案させていただき、ご検討いただくこととなりました。
アイハンスのマイクロモノビジョンのシュミレーションとして、左眼に+0.25~+0.75Dのレンズを付加して遠近視力を測定したところ、+0.50D付加(0.50D近方ずらし)で、遠方視力が1.0に低下し近方視力は0.8にUPしましたが、もっと近方がみたいとのことでした。遠方視力をこれ以上低下させずに近方視力を上げるにはアイハンスでは難しいことをご理解いただき、アイハンスとピュアシーで検討していただくこととなりました。その後1ヶ月以上レンズ注文期限のギリギリまで悩まれ、最終的に「テクニスピュアシーに決めました」とお電話で連絡を受けました。
次に右眼の目標度数設定=使用レンズ度数決定ですが、上記左眼でのシュミレーション結果を参考にピュアシーの特徴を踏まえ、左眼よりも近方視力が良好かつ遠方視力が落ちない最適な度数を計算し、左眼のアイハンスと同度数のレンズを含む複数の度数を準備して手術に臨みました。
テクニスピュアシーはORAシステムではまだ最適化がされておりませんので、下図のように同じプラットフォームのレンズで既に最適化されているアイハンスとシナジーの結果も表示しつつ、悩みながら使用レンズ度数決定して手術は問題なく終了しました。
右眼術後は、裸眼視力で遠方1.5(矯正不能)/近方1.0p(1.2)と、ご希望通り左眼よりも良好な近方視力と、予想以上に良好な遠方視力に満足していただき、両眼での眼鏡フリーの生活に喜んでいただけました。
テクニスピュアシーの目標度数設定は通常のレンズと大きく異なるため、最後に少しその特徴と、度数選択における注意点を述べさせていただきます。本症例で使用したレンズ度数・目標屈折度に関してはミスリードになってはいけませんので伏せておきますが、これまでの使用経験上、通常の度数選択をしていては近方視力はそれほど期待できないと思われます。J&J社からは理論的根拠の説明はないものの、ファーストマイナス(目標屈折度が0Dに1番近い近視側=マイナス側のレンズ度数:下図左列で言えば-0.10を目標とする+22.5D)が推奨とされておりますが、盲目的にそれを信じて度数選択をしたことにより、患者様に不利益が生じないか少々心配でしたので、こちらで述べた通り、レンズの構造上の特性から最適な度数選択を模索したのち、当院ではピュアシーの使用を開始した経緯があります。
少々専門的な話になりますが、通常の度数計算にはA定数(主に眼内でのレンズの固定位置を反映)というレンズ固有の定数が存在します。つまりプラットフォーム(ベースとなる単焦点レンズ)が同じである、テクニスオプティブルー・アイハンス・シナジー・オデッセイ・ピュアシーは全て同じA定数(119.30)となりますが、個人的にはピュアシーのA定数は他のテクニスレンズとは異なっている印象です。
再掲載になりますが、下図のピュアシーのパワーマップを見ると、そもそも+20.0Dのピュアシーのレンズ光学部の中で、本来の+20.0Dの度数部分はごくわずかです。にもかかわららず+20.0Dとして販売している根拠を、臨床・ラボデータ(+20.0Dとして使用することが一番コントラスト・MTFが高く、異常光視症が少ないなど)を提示してご説明いただければ、私たち眼科医側も自信を持ってピュアシーを使用することができるはずです。
こちらはあくまで私見ですが、A定数を変えないで販売するのであれば、極端な話、+20.0Dとして販売するのではなく、本来は+19.5Dや+19.0Dとして販売した方が良いのではとさえ感じています。実際に当院での最適化によると、ピュアシーの目標度数設定は、通常の目標度数+?Dとして計算結果を見た方が、ピュアシーの特性によるメリットを享受しやすいという結果が出ていますし、検査機器の違いにもよりますが、それは推奨されるファーストマイナスとは異なる例がほとんどです(理論上ファーストマイナスにあたる度数は0D~-0.35D程度)。
今回はテクニスピュアシーとしてはチャンピオン症例に近い症例を提示させていただきました。目標屈折度設定の注意点についてもふれさせていただきましたが、現時点では国内外の論文含め、具体的なテクニスピュアシーの最適な目標度数に関して言及されているものは見当たりませんので、現時点では各施設で最適化された度数を使用するのが最良かと思われます。今後学会などで、より具体的なevidenceを伴う情報が出てくるかと思われますので、引き続きアップデートさせていただきます。
2025.10.04
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
白く霞んで見えた。
- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
スマホで色々と各先生のブログを見て決めた。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
ありませんでした。
- Q.手術後の見え方はいかがですか?
意外と近くが見えるようになった。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
メガネなしで新聞が読める。
- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
単焦点でも深度があるアイハンスを選び、反対の目で深度をもう少し広げて見たいと思い判断しました。
- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
先生の手術の内容を見て選びました。他の人にも勧めたいと思います。