診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

杉並区60代女性 白内障手術症例#86 強度近視・核白内障(両眼:Clareon Vivity:クラレオンビビティ)

  • 術前

    遠見:0.03(0.7)
    近見:(0.4)

    遠見:0.08(1.5)
    近見:(1.0p)

  • 術後

    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.0p(1.2)

    遠見:1.5p(1.5)
    近見:1.2(i.d.)

既に他院で両眼の多焦点レンズでの白内障の手術を予定しているも、レンズ選択に不安があるとのことで、紹介状なくセカンドオピニオン的に2023年11月に当院初診の方です。

両眼とも眼軸長は25mm程度でしたが、角膜屈折度46Dを超えることによる強度近視眼であり、右眼は核白内障の進行による近視化も加わり-12.0Dを超える最強度近視となっており、右眼は矯正視力0.7まで低下し、下図OPD scanⅢの右端のように、核白内障特有の3重に見える水晶体の高次収差trefoilも表れていました。

角膜乱視はやや非対称成分を含む直乱視であり、上図OPD scan Ⅲの中央列が示すように上下非対称性の乱視成分もあり円錐角膜の要素も示唆されましたが、角膜球面収差も0.316µmと正常かつ、左列の角膜高次収差も0.130µmと低値でしたので、多焦点レンズの機能がきちんと発揮されうる眼と判断させていただきました。

前医ではパンオプティクスなどを検討されていたようですが、術前アンケートでは、「できるだけ眼鏡はかけたくないが、見え方の質を重視したいと思っている。最悪、読書などの時に眼鏡をかけるのは仕方ないと思っている。」と記載され、「遠方」を最も重視すると回答されておりました。ご自身の性格に関するアンケートも「完璧主義」を選択されており、正直見え方の質に対するこだわりが非常に強い印象でしたので、その点は多焦点レンズ向いていないこともご理解いただきましたが、やはり多焦点レンズでの手術をご希望されました。

角膜乱視は右眼は-0.94~-1.06D、左眼は1.31~1.65と左眼にはやや変動が見られ、切開創の位置の工夫(強主経線上切開)で右眼は乱視を十分減らせると思われましたが、左眼は乱視用レンズが必要になる可能性が高く、その点がレンズ選択に制限がかかる点であることを説明させていただきました。そのうえで、ハロ・グレアなどの異常光視症を避け見え方の質の良い多焦点レンズをご希望とのことで、ご本人によると、コントラストなどに問題なければ両眼パンオプティクスでも可、可能なら右眼に波面制御型のClareon Vivityビビティ)/左眼は結果により乱視用パンオプティクスもしくはVivity③ミニウェル・レディ/プロクサで検討されるとのことで、2024年3月の手術まで悩んでいただくこととしました。

その後、術前検査の過程で、術日とレンズ手配日の問題から③ミニウェル・レディ/プロクサは却下され、右眼をVivityにするかパンオプティクスにするか直前まで悩まれ、右眼の手術6日前にお電話にて「Vivityに決めました!」との連絡を受けました。その際も遠方に合わせたときの近方の視力の数値を聞きたいと言われましたので、Vivityのスペック的には0.7前後のことが多いとお答えしたところ、目標屈折度は0D=無限の遠方でなくやや近方を希望するとのことでした。眼軸長と角膜屈折度のプロポーションが悪く非常に屈折誤差の生じやすい眼球でしたので、複数の度数Vivityを準備して手術に臨みました。

まずは右眼の手術ですが、核硬度は進行していたものの水晶体の乳化吸引は問題なく終了し、術中波面収差解析装置ORAシステム)で2回測定して、眼球全乱視も0.15~0.66に減少していることを確認し乱視用が必要ないことを確認しました(下図参照)。さらに眼球全収差などの説明変数をもちいた当院の回帰式を用いてレンズ度数を選択し、結果として下図のようにORAではやや近方の-0.60Dという予測屈折度になる11.0DのVivityを用いて手術は問題なく終了しました。

右眼の術翌日の屈折度は、他覚屈折度-0.50D/自覚屈折度0.0Dとなり、裸眼視力は遠方1.5/近方0.8と術前にお伝えしたとおりの視力にご理解いただけました。術後4日目には期待通りやや近視化し、他覚屈折度-0.875D/自覚屈折度-0.25Dとなり、裸眼視力遠方1.2/近方1.2と変化し、予想以上の遠近視力に喜んでいただけましたが、右眼の結果が期待以上に良好だったため左眼のレンズ選択が難しくなりました。患者様としては当然右眼の見え方と同等のクオリティのレンズ、つまり左眼もVivityをご希望されましたが、前述のように右眼よりも左眼の方が角膜乱視が強いため、乱視用のないVivityは使用できない可能性があります。

そこで、乱視用のパンオプティクスとVivityの両レンズを準備し、術中波面収差測定による全乱視が1.0D以上あれば乱視用パンオプティクス1.0D以内(できれば0.75D以内)ならVivityを使用することにご納得いただけました。また右眼は近見はもう十分満足とのことで、左眼Vivity使用の際は右眼より遠方目標をご希望されました。そこで右眼より0.375D遠方にずらしてシュミレーションすると、裸眼視力が遠方1.5/近方0.7となり、近見視力低下も許容できるということを確認したうえでVivityの目標屈折度を設定しました。

左眼の手術は、乱視用を使用する可能性もあるため、ORAシステムが機能しない場合のバックアップとして、まずはマニュアルでの乱視軸のマーキングを行い、なるべく角膜乱視を減少させる位置・方法での切開創の作成から開始しました。白内障そのものは右眼ほどの核硬度はありませんでしたので、水晶体摘出はよりスムーズに進行しORAシステムによる眼球全収差の測定となりました。左眼も2回測定し、下図のように眼球全乱視が-0.90~-0.74Dとなりましたので、その旨患者様にお伝えし相談の結果Vivityを使用することに同意いただき、同様に眼球全収差値などを用いて回帰式から決定した度数である13.0DのVivityを用いて手術は問題なく終了しました(ホントにどうでもよいことですが、後から気が付きましたが手術時の測定時間が左右とも全く同じでビックリしました)。

左眼の術翌日の他覚屈折度は+0.125Dで乱視は0.75Dであり、自覚屈折度は+0.625Dとやや遠視ズレのためか裸眼視力は遠方1.2p/近方0.7でしたが、術後10日目には期待通り適度に近視化し、他覚屈折度-0.625D/自覚屈折度0.00Dとなり懸念された角膜乱視も影響もなく、裸眼視力は遠方1.5p/近方1.2になり、こちらも予想以上の遠近視力に喜んでいただけました。不思議なことに左眼の方が遠方よりに設定し乱視も右眼より0.50D大きいのですが、左眼の方が右眼より遠近とも良好な視力となりましたので、こちらは単焦点に見られるような適度な直乱視が近方視力にプラスに働いているためかと思われます。術後アンケートでは「想定していたよりも手元が見える」と大変満足していただき、今はお休みしている税理士の仕事も眼鏡なしで無理なくできそうですと喜んでいただけました。
このようにVivityとパンオプティクスのMix-and-Matchでなく両眼Vivity使用でも、適度な左右差をつけることで、満足いただける結果をご提供することも症例によっては可能ですが、その「適度」の加減は人それぞれ異なりますので目標設定には注意が必要です。

最近の多焦点レンズ(老視矯正レンズ)は、Vivityのようなハログレアといった異常光視症が少なく、見え方の質を優先したレンズと、近くまで見える近見距離を優先したレンズに二極化してきておりますので、患者様におかれましては、自分の優先度をしっかり担当医に伝えたうえでレンズ選択されることが非常に重要になります。前者としては、Vivityとほぼ同様の加入度数を持つJ&J社の新しい屈折型EDOFレンズであるTECNIS PureSee(テクニスピュアシー)後者では、Tecnis Synergy (テクニスシナジー)より異常光視症が軽減されたTECNIS Odyssey (テクニスオデッセイ)の登場が控えています。特にTECNIS Odyssey (テクニスオデッセイ)は、いわばテクニスシナジーの上位互換にあたるため、早ければ今秋から国内使用も可能になる見込みです。

もちろん異常光視症が少なく手元まで見えるレンズが1番なのですが、残念ながら現時点では天然の水晶体と同様の視機能を提供してくれる完璧な眼内レンは存在しません選定療養対象レンズ以外では、自由診療になってしまいますが、Lenstec社のClearView3や、SIFI社のMiniwell Readyなどがそのコンセプトには近しいかと思われますので、ご興味にある方はお気軽にご相談ください。

先日、そのMiniwell Readyよりは近見加入度は弱いですが、異常光視症がほとんどなく見え方の質の高い多焦点レンズである、イタリアSoleko社の焦点深度拡張型レンズEvolveアドオンレンズの症例を経験させていただきましたので、次回掲載予定とさせていただきます。

2024.05.29

Q.手術前はどのような状態でしたか?

サングラスをかけたように茶色く、かすんでいた。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

1年程前から白内障の診断を受けていたが、見え方が明らかに悪くなってきたので。

Q.手術中に痛みはありましたか?

押されるような感覚はあったが痛くはなかった。終わった後の注射が痛かった。(左眼のみ)

Q.手術後の見え方はいかがですか?

明るくなり、コントラストもよく、すっきり見えるようになった。また、想定していたよりも手元が見える。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

コンタクトなしで生活できるようになった。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

できるだけ眼鏡なしで過ごしたかったので。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧めます。家から近くて手術症例も多く、また某大学病院の先生にも勧められたので。