診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

新宿区60代女性 白内障手術症例#81 遠視眼(回折型3焦点レンズ:ファインビジョンHP:POD F GF

  • 術前

    右眼
    遠見:0.3p (1.5)
    近見:測定なし

    左眼
    遠見:0.3 (0.8)
    近見:測定なし

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5 (i.d.)
    近見:1.2 (i.d)

    左眼
    遠見:1.5p(1.5)
    近見:1.2 (i.d)

最近問い合わせが多いためファインビジョンHP(POD F GF)の当院第1例目の症例を掲載させていただきます。

10年前から左眼の見えにくさ自覚しており、近医で白内障指摘されるも、そこでは手術していないため、紹介状なく2023年3月当院初診された方です。

自覚症状どおり左眼は、鼻側から中央まで前嚢下皮質に強い混濁認め、矯正視力も0.8に低下しておりました。また右眼の矯正視力はまだ1.5出ておりましたが、眼軸長は23mm台前半とやや短く両眼とも遠視化しておりましたので、両眼の手術を希望されました。

ご本人は、適応あればクラレオン・ビビティ(Vivity)での手術を念頭に受診されたとのことですが、術前アンケートでは運転機会もほとんどなく室内ではほぼ眼鏡なしで生活したいとのことでした。Vivityの明視域は遠~中のレンズになりますので、老眼鏡の使用が必要であることをご説明したところ、2回目の受診時にはVivityは選択肢から外れ、ファインビジョンHP(POD F GF)とパンオプティクスで悩まれているとのことでした。

OPD scan Ⅲによる角膜収差解析では大きな乱視もなく高次収差も乏しく、上記2種類どちらの3焦点レンズでも多焦点の機能は発揮されうると思われましたので、遠方重視ならパンオプティクス近方重視ならファインビジョンという基準でご選択いただき、最終的には「ファインビジョンの手元の見え方が魅力的」との理由でファインビジョンHPでの手術をご希望されました。

ファインビジョン歴史と実績のある回折型3焦点レンズですので、度数選択のための定数の最適化も十分行われているはずですが、今回は素材が親水性から独自のグリスニングフリー疎水性アクリルに変わったため、定数が変化している可能性もゼロではありません。そこで下図のように複数の計算結果を比較し、使用候補のレンズを準備しました。正視=ゼロに最も近い度数は21.5Dとなりますので、これまでの経験とやや眼軸長が短めな点から21.5、22.0、22.5Dの3種類のレンズを準備して手術にのぞみました。

まず左眼の手術ですが、不均一な皮質混濁はあるものの特別なリスクは乏しい普通の白内障でしたので、水晶体摘出までは問題なく終了し、術中波面収差解析装置であるORAシステムでの計測となりました。

ここで少し目標屈折度の設定について説明させていただきます。通常の眼内レンズの度数は0.50D刻みで作成されていますので、予測目標屈折度はゼロピッタリにならないことがほとんどです。レンズ面での0.50Dの差は眼内に入ると角膜面換算では0.35D程度の差となりますので、例えば目標屈折度+0.10Dと-0.25Dですと、ゼロに近いのは+0.10Dのレンズになりますが、予測通りになった場合は遠方5mの視力は通常両方とも1.2出ます。しかしながらその0.35D差を近方で考えると、50cm(=1/2.0D)に対して45cm(=1/2.35D)、もしくは40cm(=1/2.5D)に対して35cm(=1/2.875D)の差となります。多焦点レンズの場合、レンズ面での0.50Dの差がそのまま近方の焦点距離の差を反映するかどうかは明確ではありませんが、自験例では同一症例で両眼でわずかに差をつけた場合、他覚的にも自覚的にも近方の距離に反映されている例がほとんどです。たった5cmと思われるか、近方で5cmもと思われるかは患者様ごとに異なりますが、遠方視力が同じであれば、希望者には少しでも近方が見やすい度数選択をしてあげたいと思い目標屈折度を設定し、当院では片眼ずつのstaged implantを行っております。

上記のようなことを考えながら術前予測値とORAシステムの結果を照らし合わせて、左眼は22.0Dのレンズ(目標屈折度は上図Barrett Universal Ⅱ式では-0.41Dと近視より)を使用しました。初めて使用するレンズは屈折誤差の傾向が予測できないため心配でしたが、術翌日は等価球面度数-0.125Dというほぼ正視の結果にホッと安心しました。術中波面収差解析を行わず21.5D(-0.06D目標)を選択していたら遠視化していたところでしたので、今回はORAシステムに助けられたことになりました。さらに術翌日にもかかわらず、遠方1.5/近方1.2と遠近とも視力の立ち上がりも良好であり、患者様には非常に喜んでいただけました。念のため右眼の手術までは10日あけておりましたので、目標屈折度設定のために、右眼術日の術直前にも左眼の視力検査をしたところ、30cm近見裸眼視力も1.0でしたので、近方に強いファインビジョンの特徴がしっかり再確認できました。右眼も当然左眼同様の目標で良いだろうと個人的には思いましたが、この方は「可能なら右眼はもう少し近方にしてほしい」とのご希望でした。

右眼の手術に関しても、ORAシステムの波面収差測定結果を見ながら、左眼より遠方にならないように、かつ適切な左右差に留まるようにレンズ度数を選択し、手術は問題なく終了しました。右眼の術後屈折度は、ご希望通りわずかに近方になり、こちらも遠方1.5/近方1.2のと期待通りの良好な視力に満足していただけました。

下図はファインビジョンとパンオプティクスの徹照写真ですが、回折格子パターンの違いが分かりますでしょうか?

ファインビジョンは悪く言えば昔のレンズ、良く言えば歴史と実績豊富なレンズと言えますが、その近方の見え方には以前から定評があります。素材が親水性から独自の疎水性アクリルレンズに改良され当院では初めての症例でしたが、やはり近見の見え方(というか距離感)は期待どおりでしたし、術後視力の立ち上がりも非常に良く感じました。

下図は親水性素材の旧ファインビジョンとその他多焦点レンズの焦点深度曲線の比較ですが、やはり33cm程度の近距離視力は、パンオプティクスなどよりも良好な傾向が見られます。

また、ハロ・グレア・スターバーストパンオプティクスと同等であり(下図上段)、眼鏡依存度は非常に低いことが分かります(下図中段)。なお、素材の改良が、視力や異常光視症の改善に影響を与えているかどうかはまだ不明ですので、随時情報をアップデートさせていただきます。

上記のような特徴を持つ古くて新しいファインビジョンですので、眼鏡なしの生活を希望され、近方の距離感を重視したいけれどもテクニスシナジーのようなスターバーストは回避したい方に向いていると思われますが、やはり明視域に関しては旧ファインビジョンよりもテクニスシナジーの方がやや広い(より近方まで見える)、と報告されています。このように残念ながら現時点では多焦点レンズに完璧なものはなく、それぞれに一長一短ありますので、この症例の方のように、ご自分のライフスタイル優先させたい点をしっかり医師に伝えてレンズ選択をすることが、術後満足度向上のためには1番大切かと思われます。

ファインビジョンについての説明は過去の記事「回折型3焦点レンズ ファインビジョンHP(FineVision HP:POD F GF)導入のお知らせ」にもありますので、ご興味のある方はご参照ください。

https://morohoshi-ganka.com/news/1428

2023.10.04

Q.手術前はどのような状態でしたか?

左眼の視界が白く霞んで見づらいのを、右眼でカバーしていました。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

遠方の視力も落ち始め、駅での案内板などもボヤけたり文字も二重に見えたりと、日常生活に支障が出るようになった為です。

Q.手術中に痛みはありましたか?

点眼麻酔後に手術を行うので、殆ど痛みはありませんでした。先生の声掛けに従って眼球を動かさないように集中しました。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

手元から遠方の景色まで連続して自然に見えます。コントラストも良く鮮明にくっきりと見えます。夜間でのハロー・グレアなどの眩しさは多少出ています。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

長年悩まされていた老眼も同時に改善されて、気持ちも若いころに戻った様です。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

眼鏡不要の日常生活に期待して多焦点レンズを選びました。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

お勧めします。手術後の見え方の希望を明確に医師に伝える事が大切だと思います。豊富な経験と精度の高い手術で、一人ひとりの患者が満足する結果が出るようにベストを尽くしてくれるクリニックと感じられました。