診療内容

白内障手術症例集
単焦点眼内レンズ

杉並区60代男性 白内障手術症例#61 強度近視+黄斑浮腫 (乱視用焦点深度拡張型単焦点レンズ テクニス:アイハンス トーリック)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.03(0.5)

    左眼
    遠見:0.03(0.7)

  • 術後

    右眼
    遠見:0.8(1.2)
    近見:0.9(1.2)

    左眼
    遠見:1.0(1.5)
    近見:0.7(1.0)

2ヶ月前から光がたくさん入る感じがして見えにくいとのことで、多焦点レンズでの白内障手術相談にて2020年9月に初診された方です。

両眼とも強度近視であり、右眼優位に進行した核白内障認め、矯正視力も右眼0.5、左眼0.7と低下しておりました。下図OPD scan Ⅲ右列眼内収差でも映像が3つに分かれて非常に滲んで見えてしまっていることが分かります。その他、10年以上の糖尿病歴があり、両眼とも眼底出血に加え黄斑浮腫をきたしていたため、白内障手術による浮腫増悪の可能性をお伝えし、白内障よりもまずは糖尿病網膜症の治療の優先度が高い旨ご説明させていただきました。

<右眼術前OPD scanⅢ>

眼圧もやや高値で心筋梗塞の既往もあり、ステロイドや抗VEGF薬の硝子体注射もリスクがあるため、まずは内服治療と網膜レーザー加療を開始しました。焦らず慎重にレーザー治療を繰り返すことで、2021年9月には黄斑浮腫もほぼ消退し、矯正視力も右眼0.7・左眼1.0と改善し、1年越しの白内障手術となりました。
下図は治療前後のOCT像ですが、赤く腫れた部分の面積が狭くなり、網膜の浮腫みが335µmから273µmに軽快していることが分かります。

<治療前OCT&網膜厚>
 
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<治療後OCT&網膜厚>
 

眼内レンズに関してですが、当初より黄斑部疾患があるため多焦点レンズは不適と説明させていただきましたので、ご本人はたいそうがっかりされておりましたが、通常はコンタクトレンズ上からときおり老眼鏡を使用されていることでしたので、それならばと、コントラスト感度低下が少なく0.5Dの焦点深度拡張効果が付加されているテクニスアイハンスでの手術をご提案させていただきました。

もともと右眼は核白内障進行により、コンタクトレンズ装用時でも-2.5D程度の近視が残っており、矯正視力不良ながらモノビジョン様になっていましたので、右眼の目標屈折度はアイハンスの0.5D加入を考慮して-2.0Dをご提案させていただきました。しかしながら、お仕事で使用するデスクトップパソコンにピントがしっかり合うことをご希望されましたので、やや遠方の-1.75Dを目標屈折度と設定し、角膜乱視が1.5D以上ありましたので、乱視用のテクニスアイハンストーリックを使用しての手術となりました。

糖尿病の方特有の軽度散瞳不良はありましたが、右眼手術は問題なく終了し、懸念されていた術後の黄斑浮腫の増悪もなく、パソコン使用距離はもちろんですが、強度近視の方によく見られるように予想よりも遠方視力が良く裸眼にて遠方0.8/近方0.9の良好な視力に満足いただきました。

  <術前スリット写真>     <術後徹照写真>
 

     <術前眼底写真>       <術後眼底写真>
 

僚眼の左眼については、文庫本を読んだりの手元を見るときは老眼鏡使用することに抵抗はないため、せっかくならもう少し遠方まで見えたいとのご希望でしたので、普段ご使用のコンタクトレンズ上の屈折度である-1.25D程度を目標屈折度としてご提案しました。しかしながら、それでは遠方裸眼視力は0.7程度でやや物足りないとのことでしたので、やや遠方の-1.0~-0.75Dを目標屈折度(左右差0.75D程度のマイクロモノビジョン)としての手術となりました。
結果として左眼術後も予想よりも遠方視力が良く、裸眼にて遠方1.0/近方0.7の良好な視力に満足していただけました。

術後検診では、携帯電話などのごく近方は見えにくいけれども、お仕事含め日常生活は不自由ないとのことで、術後3ヶ月経過しても眼鏡なしで生活されておりました。また、これまで水晶体混濁(白内障)が障壁となり診察しにくかった網膜病変も見落としなく発見でき、糖尿病網膜症のレーザー治療もより的確にできるようになり、網膜症管理の質が向上したこともメリットの1つです。

テクニスアイハンスは、上図の術後徹照写真からも分かるように、テクニスシナジーのような回折構造を持たず、収差を利用することで明視域が0.5D拡張された単焦点レンズです。同等のプラットフォームの単焦点レンズと比べ、コントラスト感度もほぼ同等と報告されていることからも適応の広いレンズと考えられますが、角膜球面収差がマイナスになっているような遠視レーシックを受けている方や円錐角膜の方は、その適応に注意が必要と思われます。見え方の質を落とさず単焦点+αをご希望される方には向いているレンズかと思いますので、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
なお、ときおり質問されますが、テクニスアイハンスは当院含め一部のクリニックでしか使用できないレンズではなく、厚労省が認可している保険適応レンズですので、基本的にどちらの眼科クリニックでも入手使用できるレンズですので、ご興味のある方はまずは主治医の方にご相談されてみてください。

2022.02.02

Q.手術前はどのような状態でしたか?

光がたくさん入る感じがして見えにくい。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

光が眩しくて見えづらくなったので。

Q.手術中に痛みはありましたか?

ありません。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

PC・テレビ間がよく見えるようになった。
近くは見えづらい。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

PC・テレビがよく見えるようになった。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

PCが見える距離があれば良いので、単焦点を選んだ。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

はい。