診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

武蔵野市70代女性 白内障手術症例#56 油絵画家(分節状屈折型2焦点レンズ:レンティスコンフォート)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.3p(0.4p)

    左眼
    遠見:0.4 (0.8)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.0(1.2)

    左眼
    遠見:1.2p(1.2)
    近見:0.8p(1.0)

普段は都内の眼科病院に4ヶ月毎通院されているとのことですが、3日前に急に霞が強くなり初診された方です。
両眼の強い皮質混濁を伴った白内障のほか網膜・黄斑疾患は認めなかったため、白内障進行による視力低下と診断し、手術療法もひとつの解決策としてご提案させていただきました。ちなみに通常は白内障では「急に」見えなくなることはありませんが、水晶体周囲からの皮質混濁が中央まで進んだときに、この方のように「急に」と感じる方は散見されます。

右眼術前スリット写真  右眼術前徹照写真
 

ご相談の結果手術をご希望されましたが、ご職業が画家(油絵)とのことでしたので、まずは確実にしっかりと見たい距離が見える単焦点レンズをお勧めしました。しかしながら、講演などの活動もされており、可能なら机上の原稿も裸眼で読めると嬉しいのですが・・・との要望がありました。

もともと右眼+2.5D・左眼+4.0D程度の遠視眼であり、老眼鏡は手放せない方でしたので、近方加入度は弱いものの、お仕事のパフォーマンスを優先しコントラスト低下が少ない付加価値レンズとして、回折型でない分節状屈折型のレンティスコンフォートを自信を持ってお勧めさせていただきました。慎重派の私が珍しく自信を持てる理由は、この方の場合は、術前の状態に対して術後に劣る点がほぼ皆無=全距離での視力とコントラストの向上が見込まれるからです。

当然視力低下が強い右眼からの手術となりましたが、こちらはまずは確実に遠方確保、近方は見えたらラッキーくらいのつもりで目標屈折度を設定しました。患者様によっては近方もスペック以上に見える方がいますので、最初から遠方を犠牲にして度数設定してしまうのは可能性を狭めてしまいます。状況にもよりますが、特に遠視眼の方は、よほどでなければ遠方確保から始められるのが良いと考えます。
術前から不安が強いとの訴えがありましたので、事前に手術のシュミレーションをして(手術室で顕微鏡下で顔に布を掛け開瞼器を装着)、念のため不穏にならないことを確認してからの手術となりました(過去には閉所恐怖症が見つかったこともあります)。

白内障自体は特殊性がほとんどないため、右眼の手術自体は問題なく終了し屈折誤差も生じず、術後裸眼視力は遠方1.2/近方1.0と、遠方だけでなく近方も期待以上に良好な視力となりました。

左眼は近方よりの度数設定の可能性も残しておきましたが、患者様は右眼と同じ見え方をご希望されましたので、同様の目標屈折度設定での手術となりました。左眼も問題なく手術は終了し、術後裸眼視力は遠方1.2p/近方0.8pと大変良好な結果となり、術後は「カンバスの距離も眼鏡なしで見えるし、青がとてもきれいに見える!」と創作活動再開の意欲が沸いたと喜んでいただきました。白内障になると青色系の波長が遮られるため、網膜には赤~黄色系の波長が優先的に届くことになります。「睡蓮」で有名な印象派のクロード・モネが晩年白内障を患い、作品に黄色系を多用するようになっていたことは眼科医では有名な話です。

右眼術後スリット写真  右眼術後徹照写真
 

白内障や眼内レンズの写真よりも下図術前・後の眼底写真の方が、手術による見え方の改善度をよりimpressiveに把握しやすいかと思います。白内障の混濁が除去されることにより患者様の視力が向上することはもちろん、我々眼科医側も、眼底病変を見つけやすくなり診察の質が向上しますので、術後に新たな病変が見つかることも珍しくありません。

   右眼術前眼底写真    ⇒   右眼術後眼底写真
 

本症例はもともと両眼の遠視眼であり、レンティスコンフォートもしくは単焦点でも、目標屈折度設定の間違いや術後屈折誤差さえ生じなければ、不満が残る結果にはなりにくい方でした。大学病院で指導医として研修医に症例を割り振る際にも、患者様の不利益にならないようトラブルを避け、かつ研修医に自信をつけさせるためにも、まずはこのような方の手術から始めさせていました。

もしこの方が-3.0D程度の近視眼でしたら、近方加入度が1.5D程度のレンティスコンフォートを遠方に合わせることはお勧めしません。なぜなら術前の状態に術後が負けてしまう点(近方焦点距離)が生じることで、たとえ遠方視力が向上しても不満が残る可能性があるからです。もちろん全距離で術前を上回る結果が望ましいですが、若い頃のように遠方から近方まで見える万能なレンズはありませんので、通常はどうしてもトレードオフが必要となります。

ご自身の術後満足度を高めるためにも、現在手術を考えておられる方々には、現状で満足している点=術後も変えたくない点現状で不満な点=手術によって改善したい点を把握・整理して、主治医に伝えることをお勧め致します。

2021.11.14

Q.手術前はどのような状態でしたか?

大変暗く、重かったです。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

上記状態がつらかったから。

Q.手術中に痛みはありましたか?

全くありません(ありがとうございました)。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

空が明るく何もかもいい。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

絵制作からはじめます。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

保険適応の多焦点レンズ。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

今、みんなに勧めています。