診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

神奈川県横浜市50代女性 白内障手術症例#90-2(右眼アイハンストーリック軸修正⇒両眼オデッセイトーリック入替)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.1p(1.5)
    近見:1.0p(1.5)

    左眼
    遠見:0.2p(1.5)
    近見:1.2p(1.5)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5(1.5)
    近見:1.5

    左眼
    遠見:1.5(1.5)
    近見:1.2

右眼のアイハンストーリックの乱視軸修正した方の続きです。
この方の右眼は高度角膜乱視眼ではあるものの、きれいな直乱視(正乱視)であり、不正乱視成分も高次収差として0.145µmと低値でしたので(下図OPDscanⅢ左列赤枠)、術後屈折誤差や乱視軸ズレを起こさなければ多焦点レンズの性能は十分に発揮されうる眼でした。次にレンズの種類ですが、26.5mmを超える長眼軸眼かつ46.5Dを超える急峻な角膜形状であり、非常にプロポーションが悪い=屈折誤差が起きやすい眼であったことと、もともとテクニスアイハンスが入っていた眼でしたので、確実性を考慮すると同じプラットフォームであるテクニスシリーズの多焦点レンズ、つまりテクニスオデッセが良いのではと考え提案させていただきました。

オデッセイはシナジーよりは近方が弱くなりましたが、その分コントラストが向上しハロ・グレア・スターバーストといった異常光視現象も軽減しています。しかしながらオデッセの乱視度数は、他の回折型多焦点レンズと同様に、もともと使用されていた4.50Dの製造はなく、3.75Dまでしか作製されておりません。4.50Dのアイハンスではやや過矯正であったため、修正後もわずかに倒乱視化しておりましたし、術前計算でも3.75Dのトーリックレンズでの残余乱視は、Barrett式で0.45Dの直乱視に抑えられる公算でしたので(上図右側赤枠)、多焦点レンズでもじゅうぶん許容できるものと判断しました。また、夜間運転機会もあるとのことですので、他社3焦点レンズやテクニスシナジーよりもテクニスオデッセイの方が向いていると考えられました。輸入レンズをご希望された場合は、届くまでさらに1ヵ月待たないといけないため、どうされるか心配でしたが、上記のオデッセイ選択理由をご説明したところ、患者様もテクニスオデッセイを第1に考えておられたようで、心配していたレンズ選定はスムーズに終わりました。

次に度数計算ですが、30cmを遠方ピッタリにずらすため、通常の度数計算式に加え、現在の使用中のレンズ度数での術前予測値と術後屈折度の結果から逆算する特殊な方法も用いましたが、それぞれ異なる悩ましい結果でしたので、いつものように複数度数のレンズを準備して手術に臨むこととなりました。

右眼の入れ替え手術に関しては、事前に一度癒着解除していたため、レンズ摘出はスムーズに終わりました。摘出方法は色々ありますが、個人的には眼内でレンズを切断することにストレスを感じませんので、余計な惹起乱視を避けるべく、なるべく創口に負担をかけないよう、当院では下図のようにレンズを3分割して、通常の白内障手術と同様の2.4mmから摘出し、通常ついでに後発白内障予防のために後嚢研磨をしております。
レンズ摘出後は、乱視軸使用レンズ度数決定のためのORAシステムによる術中波面解析となりましたが、下図のように、遠方合わせの同じアイハンス(DIUx)に入れ替えた場合・オデッセイ(DRTx)に入れ替えた場合・シナジー(DFR)に入れ替えた場合の3種の結果を表示し比較して、最終的に度数決定しました。左眼は近方30cmに合っているアイハンスであり近方確保はできてきるため、こちらの右眼は手加減せずしっかり遠方が見える度数を使用して手術は問題なく終了しました。ちなみに上図右側のBarrett式では+7.5Dが推奨され、下図ORAシステムでは予測屈折度-0.24Dの+7.0Dが推奨されましたが、入替前の度数ズレ幅と当院最適化後の回帰式の結果を信じて、迷いながらもORAでは術後屈折度が-0.81Dと予測されている+8.0Dを選択しました。
術後屈折誤差も心配でしたが、単焦点から回折型多焦点レンズへの入替でしたので、術後は見え方のクオリティの低下を気にされるかなと心配でしたが、計算通り術後屈折度はほぼゼロとなり、術翌日より遠方1.5/近方1.0とオデッセイにしては近方視力が良好で、ご本人も入替前のアイハンスと同様クッキリと見えると大変喜んでいただけました。もちろん近方は30cmにピントが合っている左眼の方が見えるはずですし、コンタクトレンズユーザーでしたので不必要な入替を避けるべく、まずは1ヵ月この状態で過ごしていただきましたが、結局左眼も同様の入替をご希望されました。
左眼の焦点距離は、入替後の右眼を基準として、右眼より遠方が見たいか・同程度が良いか・より近方が見たいかで選択していただきました。既に近方1.0見えておりましたので、右眼同様の目標屈折度で構わないかと思われましたが、ご本人は遠方視力が大きく低下しない程度により近方をご希望されました。そこで老眼鏡で下図のようにシュミレーションして確認することで、右眼よりも目標度数を0.50~0.75D近方よりに設定して、30cmの距離も楽に1.0~1.2程度見える度数をご希望されました。
両眼加算効果や、正視(ゼロD)からずらすほどデフォーカスにより異常光視症は大きくなる点をお伝えしていたせいか、手術直前に「やはり右眼で近方良く見えているので、左眼も同じくらいに」と目標度数の変更のお電話をいただきましたので、最終的には過度な左右差はつけず、右眼とほぼ同様だけれども右眼よりは遠方にならない度数設定で納得していただけました。
左眼の入替は初回手術より4ヶ月弱経過していたため、レンズと水晶体嚢の癒着が進行しておりましたがレンズ摘出は無事行うことができ、右眼同様にORAシステムを用いて度数と乱視軸決定を行い、レンズ挿入後にも、下図のように乱視軸がしっかり合っていること(NRR:No Rotation Recommended)を確認して手術を終えました。

術後は、左眼も裸眼視力で遠方1.5/近方1.0-1.2@40cm、シュミレーションよりも遠方視力良好かつ、シュミレーションどおりに30cm距離も1.0-1.2と良好であり非常に満足していただけました。

レンズの入替は、手術そのものだけでなく、その決断に至るまでの過程含め、患者様にはメンタル的にもかなりストレスフルなイベントであるに違いありません。この方は、初診時から現状を何とか改善したいという強い意志と覚悟をお持ちでしたので、私自身もその勇気に最大限応えたいと思い入替手術をさせていただきました。また、前医のドクターからの情報提供のご協力もあったことでより正確な手術をすることができ、最終的には患者様のご希望どおりの結果を得ることができて私も非常に嬉しく思います。

気にしないようにと言われても、眼の問題は毎日見えてしまうだけに気にしないのはなかなか難しいですし、一生つきまとう問題となります。レンズ入替は時間経過とともにリスクが高まりますので、1ヵ月以上経過しても改善されない術後の視機能不全のおありの方は、ためらわずにまずは主治医に相談されることをお勧め致します。

一部のレンズを除き、術後3か月以内であれば、難症例の白内障手術よりも、超音波を使用しない分だけ入替手術の方がむしろ安全に行えると個人的には感じています。とはいえ、入替は他に選択肢がない場合のみの「最終手段」であるべきとも考えています。

次の機会には、他院術後1ヵ月でまだまだ入替も比較的安全に行える状態でしたが、患者様のご希望もあり入替でない解決方法で裸眼視力を改善した症例を提示予定とさせていただきます。

Q.手術前はどのような状態でしたか?

ほとんどのものがボケて見えていました。
近視の見えにくさとは違う見え方で疲れる見え方でした。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

コンタクトや眼鏡を使用しない生活がしたかったからです。
諸星先生の症例集を見て、諸星先生なら私の目でも見えるようにしてくれる!と思ったからです。

Q.手術中に痛みはありましたか?

痛みは全くありませんでした。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

近くも遠くも良く見えるようになりました。
思っていた以上に見えています。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

料理や掃除などの家事を快適に行えるようになりました。
手術前に手元はあまり期待できないと思い、メイク用に10倍の拡大鏡を購入しましたが、全く必要ありませんでした。
爪切りも糸通しも、目元のアイメイクも無問題です。遠方もくっきりです!
眼鏡やコンタクトはもちろん、老眼鏡も不要です。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

単焦点レンズは焦点が合う範囲が狭すぎて不便なため、遠くも近くも眼鏡やコンタクトレンズをなるべく使用したくなかったため、多焦点レンズを選んだ。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧めますが、手術をしてくれる先生次第で結果は大きく変わるため、病院選びが重要だと思います。
HPの手術症例集を見て、感動したからです。諸星先生以外は考えられなかったためです。