診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

杉並区60代男性 白内障手術症例#85 遠視眼 Mix-and-Match(左眼:パンオプティクス⇒右眼:Vivity:ビビティ)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.4(0.6)
    近見:0.3p(0.7p)

    左眼
    遠見:0.4(0.6p)
    近見:0.2(0.5)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.5p(1.5)
    近見:1.0 (1.2p)

    左眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.2p(n.c.)

2年前に眼鏡店で視力が出ずに眼科受診を勧められていたとのことで、白内障相談にて2023年10月初診の方です。
両眼とも進行した皮質混濁により裸眼視力は0.4矯正視力0.5-0.6まで低下しておりましたが、その他の眼疾患は認めなかったため手術にて視力改善できる旨お伝えしたところ、多焦点レンズをご希望され12月に手術予約をされました。

当院の多焦点レンズ適応検査は良好な結果でパスされ、術前アンケートでは、ご本人はプロのギター奏者であり、遠方よりも楽譜距離近方を優先、運転はしないがハログレアなどの強い異常光視症は避けたいとのことでした。もともと遠視眼でしたので、まずは左眼は遠方ピッタリ合わせのパンオプティクスでの手術をお勧めし、確実に楽譜距離を確保することを目標とすることに同意していただきました。

左眼の手術に関しては、やや散瞳不良でしたが水晶体摘出は問題なく終了し、術中波面収差解析装置ORAシステムを併用して度数決定を行いました。この方は眼軸長は25mm弱とやや長いのですが角膜屈折度が41~42Dとflatであることで遠視眼になっていましたので、屈折誤差が生じやすいプロポーションでした。そこで今回はORAシステムの提案を採用し度数選択を行い、パンオプティクスを挿入して手術は問題なく終了しました。
術翌日の左眼裸眼視力は遠方0.8p/近方1.2→術後4日目には遠方1.5/近方1.5pと、懸念された屈折誤差も生じず屈折度ゼロの良好な視力に喜んでいただけました。しかしながら術後4日目の診察時に、「良く見えるけれども夜間の遠方の光がギラギラして気になる」との訴え強いため、右眼よりも近方は見えにくくなるけれども、左眼の近方視力が落ちるわけではないことをご説明させていただき、ご相談の上、右眼Vivityでの手術をご希望されました。

右眼は度数の最適化が十分でないVivityになりましたので、ORAシステムの術中全眼球収差値を説明変数として用いた当院の回帰式から使用レンズ度数を決定し、手術は問題なく終了しました。
術翌日の右眼裸眼視力は遠方1.2/近方0.7、術後10日目には遠方1.5/近方1.0pと予想以上に近方視力が良好で、左眼よりもハログレアなどを感じにくいことも実感されて満足いただけました。

その後、術後1ヵ月目の診察時にも両眼とも視力は良好でしたが、やはり左眼パンオプティクス側のハログレアは時折気になるとのことでした。そして先日の術後半年目の診察では以前ほど気にならなくなってきましたと言われていました。

このように当院のこれまでの経験から、先にパンオプティクスを挿入してハログレアを不満に感じたため僚眼にVivityを用いた場合は、術後も比較的パンオプティクスの異常光視症を感じやすく先にVivityを挿入して近見に不満を感じたため僚眼にパンオプティクスを用いた場合は、Vivityの近見不満もパンオプティクスの異常光視症も感じにくい傾向があることが分かりましたので、白内障の程度はもちろん乱視や術前屈折度など患者様の条件が許す場合は、Vivityを先に使用することにしております。
上記は医学的・眼科的というよりは、個々の性格や心理的な要素の方が多いかもしれませんが、先にVivityを使用するということは、近見視力は弱くとも見え方のクオリティの良いVivityで満足してしまえば、両眼ともVivityを用いるという選択肢も残せるためマイナスな点はほとんどないかと思われます。

もちろんVivityを近方にズラして使用すること(ミニ or マイクロモノビジョン)も多々ありますし、術者側としては確実性の観点から、両眼同じレンズを使用した方が、屈折誤差も術後の視力も予測しやすいため、私もなるべく両眼同じレンズを使用したいのが本音です。当院ではVivityに限らず以前より僚眼の術前には、満足できるズラし幅を測定して度数決定しておりますが、その幅は人それぞれですし、0.75Dズラしても近方または遠方視力に満足できない方は、同じVivityでは満足できる両眼視力を得ることが難しいため、異なるタイプのレンズを用いて不満点を補填する方法としてMix-and Matchを検討するしかないということになります。ちなみに近方にズラせばズラすほど、defocus(ピントのズレ)によるグレア様の光のにじみは大きくなってしまいます(近眼の方は夜間メガネを外すと遠くの街灯の光のにじみが大きくなることでご理解できると思います)ので、Vivityを選択されるメリットも小さくなってしまうことも、近方にズラして使用することの懸念事項の1つです。

テクニスマルチとテクニスシナジーやテクニスシンフォニー、テクニスシナジーとパンオプティクス、パンオプティクスとファインビジョンのように、どちらも同じ回折型のレンズであれば片眼ずつ異なるレンズを使用しても十分対応できることは容易に想像でき、当院でもそのような使用方法をすることもあります。しかしながらVivityパンオプティクス波面制御型回折型という多焦点の仕組みの異なるレンズを、片眼ずつMix-and-Matchすることに関しては私も懐疑的ではありましたが、車社会の米国でも良好な結果が得られているようですし、当院でも症例により採用し現在のところ、安全かつ予想以上に満足度の高い結果を得ております(安全とは術者側にもという意味です)。これまではMix -and-Matchせずに両眼とも同じレンズで満足できる選択がベストかと思っておりましたが、最近では、両眼パンオプティクス眼と比べ、Vivity/パンオプティクスのMix-and-Match視力は同等(両眼Vivityは近方視力が有意に弱い)かつ、満足度はMix-and-Matchの方が高かったとの報告も出てきております(Journal of Cataract & Refractive Surgery 50(2):p 167-173, February 2024. )。また、Vivityは近見が弱いという点は事実ですが、EDOFを除く2・3焦点回折型レンズはほぼ全て1m程度の距離はやや視力が落ち込みますので、Vivityはその落ち込みをカバーしてくれる点はあまり表立ってはいませんが評価に値すると思われます。

Mix-and-Matchの際は、優位眼にVivityを使用する方が望ましいかも知れませんが、優位眼は比較的簡単に変わってしまうものですので(dominant switch)、決して最優先事項ではありません。実際に片眼のみ白内障になることで優位眼が交代してしまっている方は多くおられますので、乱視の大小や、もともとの屈折度の左右差を優先してレンズ選択をした方が有益かと思われます。

上記のことを実現するためには、屈折誤差を生じずに目標通りの手術を行うことが大前提となります。術前の適応判断や目標設定は別として、一定のレベル以上の手術が行われる場合においては、術後裸眼視力と満足度に差が出る1番の要因は、いかに屈折誤差を出さないレンズ選択を行い、再現性の高い手術を行うかにかかっていると感じています。術者の技術と器機の進歩により白内障手術は完成度の高い手技になってきていることからも、少々乱暴な言い方になりますが、昨今では術後屈折誤差くらいでしか差別化ができないようになってきているように感じることから、当院ではその点を重視した手術を心掛けております。

参考までに、最後にClareon素材の前身のAcrysof素材のVivityPanOptix単眼のDefocus Curve(改変)を掲載しておきます。両眼加算とは言え単純に両者の足し算になるわけはありませんが、マイナスになることはないのではと思われますので、適応含めご興味のある方はお気軽にご相談ください。なお次回は対比として両眼Vivity症例の掲載を予定しております。

2024.04.10

Q.手術前はどのような状態でしたか?

字がかすむ。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

全体が見えづらい。

Q.手術中に痛みはありましたか?

ない。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

はっきり見える。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

眼鏡がいらなくなった。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

多焦点。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧めます。ネットで知りました。