診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

武蔵野市60代女性 白内障症例#80 レーシック後(左眼:3焦点型多焦点レンズ:クラレオン・パンオプティクス⇒右眼:波面制御型/焦点深度拡張型EDOF多焦点レンズ:Clareon Vivity:クラレオン・ビビティ)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.9 (1.2)
    近見:0.09(1.2)

    左眼
    遠見:0.2 (0.5)
    近見:0.06(0.4)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.2(id)
    近見:0.7p(1.2)

    左眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.2p(1.2)

1か月前の検診で白内障を指摘され手術を勧められたとのことで、多焦点レンズでの手術相談にて2023年2月に初診の方です。
両眼とも12年前にレーシック(LASIK)を受けているとのことでしたので、当然多焦点レンズ適応のハードルは高く、さらにレーシック術前のデータは何もないとのことでしたので屈折誤差リスクも高い状態でしたが、レンズの種類は別としてまずは術前の評価をさせていただきました。

両眼ともいわゆる普通の中等度白内障でしたが、左眼中央部に優位な皮質混濁を認め、下図の角膜形状/収差解析装置であるOPD scanⅢの結果から分かるように、水晶体混濁による内部収差が、右眼0.202/左眼1.190(下図左列赤枠)と非常に大きくなっており、矯正視力も0.5まで落ちていました。右眼の遠方視力は裸眼0.9/矯正1.2と比較的良好でしたので、まずは左眼のみの手術でもとお話ししましたが、両眼とも遠視化し近見裸眼視力は右眼0.09/左眼0.06まで低下していたこともあり、ご本人は両眼の手術をご希望されました。

多焦点レンズの適応判断では必須である上図角膜形状/収差解析(OPD scanⅢ)では、レーザーの偏心照射も大きくなく意外と角膜球面収差高次収差低値であり、レーシック後にしてはキレイな角膜をされていましたので、多焦点レンズの機能も発揮されうると判断させていただきました。また術前の聞き取りでは、趣味は編み物ピアノであり、運転機会(夜間も時折)もありとのことでしたので、ハログレアがほとんど生じず、レーシック後の方にもデメリットが生じにくいとされ、当時先行使用を予定していたクラレオンビビティ(Vivity)をお勧させていただきました。しかしながら、ハログレアは了承済だから、どうしてもVivityの近見範囲よりも手元を見たいとのことで、ご本人はパンオプティクスを強くご希望され、左眼の経過によって右眼はVivity含め他のレンズも検討したいとのことでした。この方の優位眼右眼でしたので、非優位眼の左眼にパンオプティクス優位眼の右眼にビビティ(Vivity)もしくは単焦点遠方合わせ「アリ」だと思われましたので、ご希望どおり左眼パンオプティクスでの手術としてレンズ度数の計算・選定に進みました。

経験上、やはりレーシックによる角膜切除量が多い方は、白内障術後に思いもかけない屈折誤差(refractive surprise)を起こしてしまう率が高いと感じていますが、この方の角膜厚は右眼524/左眼533µmとまるでレーシックしていない普通の方(約530µm)と同等でしたので、それほど強い近視でなかったか、もしくはレーシック術後戻ってしまったのかと思われました。レーシック前のデータをお持ちでないとのことでしたが、複数のレーシック眼度数計算式を用いて、角膜後面も考慮して使用レンズ度数の候補を絞った結果、複数の計算結果がほぼ同様となりましたので、さらに術中波面収差解析装置であるORAシステムを用いて度数選択を行えば、さらに正確な手術ができるのではと予測されました。

まず左眼の手術ですが、水晶体摘出は問題なく終了し、ORAシステムでの計測となりましたが、術前の予測では20.0Dが正視の有力候補でしたが、ORAシステムの結果では下図のとおり、19.5D(→+0.08D)が最も正視に近い度数として推奨されました。しかしながらORAシステムにも誤差の傾向が存在しますので、迷いながらもこれまでの経験当院の回帰解析の結果より20.5D→-0.56を選択し手術は問題なく終了しました。

レーシック後の方の術翌日の屈折検査はいつもドキドキするのですが、下図右列のように翌日の等価球面度数:+0.125Dほぼ正視になりホッとしました(術後3ヶ月経過時:-0.25D)。裸眼視力も遠近とも1.2/1.2pと大変良好でしたので、これなら右眼も当然パンオプティクスで良いかなと考えておりましたが、ご本人からはハロ・グレアが気になるとの訴えがあり右眼はビビティをご希望されました。幸い右眼の手術とは念のため3週間ほど間隔をあけておりましたので経過をみておりましたが、ハログレアは軽減してきたものの、どうしても気になるためやはり右眼Vivityをご希望され、左眼よりも遠方目標をご希望されました。屈折度的には左眼も十分遠方なので、これ以上遠方となるとやや遠視気味に設定することになり、より加入度数の低いVivityであればなおさら近方視力が出にくくなる旨もご説明させていただきましたが、近方は左眼で満足されているとのことで、運転時などの遠方の見え方を優先させたいとのことでした。

次に右眼の手術ですが、こちらも水晶体摘出までは問題なく終了し、ORAシステムでの計測の結果、ご希望どおり左眼よりも0.5D遠方の-0.06Dを目標とする19.5Dのレンズ(術前予測屈折度は+0.14D)を使用し、手術は通常どおり問題なく終了しました。

術後の屈折度は上図左列になります。Vivityの場合は中央加入部分が測定に影響するため、オートレフケラトメーターによる屈折度測定値は実際の屈折度よりも0.25~0.75D程度近視寄りに表示される傾向があります。つまり測定値(他覚値)の-0.50Dがほぼ実際(自覚値)の0.0Dとなりますので、右眼の自覚屈折度は計算どおり左眼よりは遠方、かつ若干遠視気味になってくれくれたことになります。術後は左眼に感じるようなハログレアは右眼のVivityでは全く感じないし左眼より明るく感じると喜んでいただけましたので、単焦点とほぼ同様異常光視症がないというVivityのスペックを再確認できました。しかしながら、この方は術後1~2ヶ月ほども左眼のハログレアも時折感じ、右眼もなんとなく遠方が見えにくいと訴えがあり、裸眼遠方視力も1.0~0.8と変動しておりました(近方は0.6~0.9)。もちろんレーシック眼であることも原因として考えられますが、Vivityレンズ中央に加入部分がある点も遠方視力が不安定な理由の1つかも知れません。

また、Vivityは焦点深度拡張型(EDOF)であり、遠方~60cm程度(0~約1.5D加入)のどこにでも連続的にピントがあっている計算になりますので、瞳孔径・瞳孔位置や、生活習慣などの諸条件により、そのピントの幅をフルに活用するためには、非科学的ですがいわゆる「慣れ」が必要かと思われます。弱い近方加入を補うために若干近方よりにズラして使用したくなることもあるレンズではありますが、遠方視力が落ちやすい症例には特に注意が必要かと思われます。余談になりますが、残念ながら販売終了になってしまった同じくアルコン社のアクティブフォーカスは低加入(2.0D程度)の回折型レンズでしたが、Vivityと逆にレンズ中央部分遠方のみにすることでハログレアを軽減し、良好な遠方の見え方が確保された良いレンズでした。

また、この方はご自分で眼鏡店で-0.75/-0.5Dの過矯正のメガネを作成されて、運転時などに使用されておりました。上記のようにVivtyはEDOFのため、メガネをしようと思えば-1.5~0.0Dまでいずれの度数のメガネも装用することは可能ですが、それはせっかくの加入部分の一部の使用を放棄してしまうことになり変なクセがついてしまうリスクがあります。必要時のみの装用であればそれほど問題にならないかも知れませんが、屈折度と視力が安定するまではメガネの使用には注意された方が良いと思われますので、眼鏡作成タイミングと度数に関しては、きちんと主治医にご相談されることをお勧めいたします。なおこの方も術後3か月時点では裸眼遠方視力1.2/近方0.7pとなり、Vivityのスペックどおりの視力に落ち着き、裸眼両眼視では遠近とも1.2と良好な視力に満足いただけました。

上図はこの方のビビティ(Vivity)波面制御部分パンオプティクス回折格子を目立たせて撮影したものになります。本症例では左眼のパンオプティクスよりも、よりハログレアの少ないレンズの選択肢があったため右眼にVivityを使用しましたが、もちろんもっと長く経過を見ればパンオプティクスのハログレアも許容範囲になったかも知れません。

多焦点レンズ、特に回折型レンズではどうしてもハロ・グレア・スターバーストといった異常光視症はゼロではありません。手術する側としては患者様のライフスタイルのほか、角膜や瞳孔径などの眼科的諸条件をきちんと評価することに加え、極力屈折誤差を小さくすることで、異常光視症を最小限にできるよう努めてはおりますが、許容範囲かどうかは性格的な要素も絡むため術前に完全に見分けることは難しいのが現状です。

次回は他院でパンオプティクスを使用して手術し、遠近とも1.2/1.0と良好な視力にもかかわらず、ハログレアが耐え難く日常生活に支障をきたすためビビティ(Vivity)への入替手術を行った症例を掲載させていただきます。なお情報提供のため、50代~70代・遠視~強度近視眼、MIGS併用例など、なるべく特徴的なVivityの症例を掲載してきましたが、症例に偏りが生じるため次回でVivityの掲載はいったん終了とさせていただきますのでご了承ください。

2023.9.24

Q.手術前はどのような状態でしたか?

左眼の視力が出なくなってきて、運転が怖くなった。暗くなってくるとよく見えなくて運転が怖くなった。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

夫が以前、多焦点レンズを入れ、眼鏡なしで快適そうだったから。眼鏡を何度変えても視力が出なくなってきたから。

Q.手術中に痛みはありましたか?

刺すような痛みや押すような痛みが少しあったが、辛い痛みではなかった。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

遠視(レーシック後)で部屋の中の生活がつらかった上、視力が出なくなっていたため、部屋の中の生活は楽になった。運転をするには標識や看板が見えにくいので眼鏡をしている。手元の細かい作業は老眼鏡をしている。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

仕事:介護福祉士
入浴介助時に眼鏡をしなくていいので、曇らず安全。広いホールでは顔が見えないが、室内の介助は快適。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

仕事上遠くも近くも見えないと困る(ホールの人や細かい爪切り)ため、多焦点レンズを選んだ。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

はい。
ホームページを見てレーシック後でもいろいろな機械でずれなくレンズを選べそうだったから。術中にも検査をしてもらえるということだったから。