診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

練馬区50代女性 白内障症例#82 遠視眼 レンズ入れ替え(右眼:回折型3焦点レンズ:パンオプティクス➡波面制御型EDOF多焦点レンズ:Clareon Vivity:クラレオン・ビビティへ入替)

  • 術前

    右眼
    遠見:1.0(1.5)
    近見:1.2(i.d.)

    左眼
    遠見:0.8p(0.9p)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.0 (1.5)
    近見:1.0p(1.2)

    左眼
    手術なし

他院で11日前に、パンオプティクスでの片眼(右眼)白内障手術を受けたけれども、ハローが想像以上にひどく日常生活に支障をきたしているとのことで、クラレオンビビティ(Vivity)への入れ替え相談にて2023年5月に初診されました。

術眼は特に問題なくきれいに手術されており、裸眼視力は遠方1.0p/近方0.8pであり、器械による他覚屈折値は等価球面度数で-0.625D残余乱視直乱視で0.75D、自覚的な等価球面度数は-0.50D残余乱視は0.50Dと低値でしたので、大きな屈折誤差も生じていませんでした。

もちろん屈折度0.0Dに比べれば0.50D近視であるぶん、わずかにハロ・グレアは大きいかもしれませんが、経験上臨床的には問題になる屈折誤差ではありませんので、症状は屈折誤差によるものでなく、パンオプティクスの回折格子に起因するものであると思われました。もちろんハロ・グレアといった異常光視症はVivityに入れ替えることで解消されるかもしれませんが、術後11日ではその判断はまだ時期尚早であり、異常光視症が軽快してくる可能性もあるので、最低術後1ヶ月は様子を見ていただき、それでもやはり入れ替え希望なら再診とさせていただきました。

その後、やはり日中でもハロ・グレアを強く感じ吐き気をもよおすほどなので入れ替えを希望したいと、術後1ヶ月目に術前データとともに前医の紹介状を持参で再診されました。屈折度は変化ありませんでしたが、裸眼視力は遠方1.0/近方1.2に改善しており、せっかく視力良好なのに角膜面における近方加入度+2.5Dパンオプティクスに比べ、約+1.5D程度であるViviyに入れ替えることは、もったいないのではとお話ししましたが、体調不良になってしまうほどの症状であり、やはり入替手術を強く希望されました。きれいに手術されておりましたので、前医での入替手術もお勧めしましたが、2023年6月時点ではまだVivityは発売前でしたので、一般発売をを待っているうちに入替による合併症リスクが高くなることを懸念され、当院での手術をご希望されましたので急遽入替手術を予定しました。

右眼の角膜乱視は前後面合わせて1.01Dの直乱視であり乱視用でないパンオプティクスが使用されておりましたが、他覚屈折度検査での全乱視は0.75Dでしたので、乱視用のないVivityでも同等の視力は確保される可能性が高いと予測されました。また、パンオプティクスもVivityも、もとは単焦点レンズのクラレオンの中に、回折格子を持つか、波面制御部分を持つかの違いですので、A定数は0.1異なりますが度数ズレの傾向もほぼ同じ(=同じ形状のレンズなので術後の眼内レンズの位置:ELPも同じ)と考えられます。この方は当初は両眼の手術の予定だったようですが、右眼の異常光視症が強いため僚眼の左眼の手術は延期としたとのことでした。左眼の角膜全乱視も直乱視ですが1.47Dあり、多焦点レンズであれば乱視用レンズが必須であると思われるため、現時点では左眼はVivityでの手術はお勧めできないとお伝えしました。また、その左眼が優位眼であり、いずれVivityの乱視用が使用可能になった際には、左眼を遠方ピッタリに合わせたいと考えているとのことで、非優位眼の右眼はやや近方よりの設定をご希望されました。

現在の右眼パンオプティクスでの他覚屈折度が-0.625Dとやや近方よりになっているため、現在のパンオプティクスと同度数のVivityを使用することで、ご希望どおり、やや近方目標になることが予測されましたが、念のため前後度数のVivityも準備して、術中波面収差解析装置であるORAシステムの結果も考慮して度数選択することとしました。

術前評価では前嚢切開(CCC)のサイズも十分に大きく、下方7時(左下青矢印)付近は、一部CCCにレンズがカバーされていない箇所があるため、その部位から比較的容易に水晶体嚢とレンズを剥離できるのではと思われました。ちなみに眼内レンズの全周をきちんとカバー(コンプリートカバー)できるようにCCCを作成しレンズを固定することが、レンズの位置・屈折度数の安定性には重要です。

乱視は角膜以外にも諸条件が影響しますが、乱視用でないパンオプティクスでも角膜乱視が問題になっていなかったことから、現状を忠実に再現した方が再現性の高い結果が得られやすいと考え、直乱視軽減のためにも入替の切開は上方の初回手術と同じ部位に作成しました。入替自体は、上記のアプローチしやすい部位からイメージどおりにレンズ光学部を剥離できましたが、やはりアルコン社製のためか支持部先端は既に水晶体嚢に癒着しておりましたので、嚢に負担をかけないようにそろりそろりと剥離し、創口に負担をかけないようにレンズを分割して摘出しました。そしてORAシステムにて計測しレンズパワーを決定しました。そしてレンズの挿入と固定ですが、ここでもまた乱視条件の変化がなるべく起きないように、パンオプティクスが入っていた位置と、支持部含め全く同じ位置にVivityを挿入固定することに努めました(下図参照)。再現性を考慮して、あえてCCCからずらしたままにすることも考えましたが、やはり安定性を重視してコンプリートカバーされるように中心に固定し直しました(右下青矢印)。

入替後の屈折度は、他覚屈折値が-0.625D、残余乱視は直乱視1.00D、自覚的な等価球面度数は-0.25、残余乱視は0.75Dとなり、裸眼視力は遠方1.0/近方1.0pとなりました。

屈折誤差もなく裸眼視力も予想通りであり、異常光視症がなくなったことで日常生活が改善体調不良も良くなったと喜んでいただけましたが、「ブレが気になり近方が思ったより見えにくい」との訴えが残りました。

入れ替え前は乱視用でないパンオプティクスでブレは気になっていなかったので、レンズの7時部分がCCCでカバーされていなかったことにより、わずかにレンズがtilt(傾斜)していたことで生じたコマ収差が、良い具合に角膜コマ収差を打ち消して全乱視を軽減していたのかも知れないので、あえてCCCでカバーされないままにズラして固定した方が良かったのかなと悶々と考えましたが、OPD scanⅢでもその違いは検出されませんでした。また、LRI(角膜輪部減張切開)を行うにはちょうど良い軽度の乱視でしたので、少しでもブレを改善する方法としてご提案しましたが、ご本には希望されませんでした。

「ブレ」に関しては乱視が増えたからとご本人は認識しているようでしたが、その原因を検証するために、乱視矯正せずに球面度数のみ負荷したところ「ブレ」が軽減されたことから、パンオプティクス(+3.25D)から近方加入度数が少ないVivity(約+2.0D)になったことも「ブレ」の原因かと思われました。また、Vivityは焦点深度とEDOFレンズという共通点からテクニスシンフォニーとよく比較されますが、これまでの使用経験上、Vivityはシンフォニーに見られるような乱視矯正能はむしろ乏しい印象があります。パンオプティクスでは「ブレ」を感じなかったことからも、もしかしたらその構造的な違いから、回折型より波面制御型のVivityの方が乱視の影響を受けやすいかも知れませんので、の適応判断には注意が必要と感じています。

この症例により、波面制御型のクラレオンVivityは期待通りに、回折型レンズのハログレアといった異常光視症解決のための代替レンズとして使用できることが確認できましたが、乱視耐性はやや弱い(もしくは回折型のパンオプティクスに乱視耐性がある?)可能性も考えられました。

最近は回折型レンズの異常光視症が問題視され、ジョンソンエンドジョンソンからはテクニスPureSee(ピュアシー)という屈折型焦点深度拡張型(EDOF)レンズがアナウンスされておりますが、一方で回折型はその構造の工夫により瞳孔径の影響を受けにくいというメリットもあり、テクニスシナジーの異常光視症軽減を目的としたテクニスOdyssey(オデッセイ)の発売も予定されているようです。

焦点深度と異常光視症発生に関しては相反する傾向があり、現在の技術では、遠方から近方まで見えるレンズほど、ハロ・グレア・スターバーストは強くなってしまいます。患者様に置かれましては、見える幅をとるか、鮮明さをとるかという、いわゆるトレードオフを迫られることになってしまいますので、見え方に関するご自分の優先度をきちんと整理してレンズ選択されることをお勧めいたします。

2024.01.17

Q.手術前はどのような状態でしたか?

パンオプティクスによる異常光視症で疲れ目と吐き気があり、日中もグレアハロが強かった

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

気分が悪くなったり夜間運転が出来なくなってしまった為、Vivityに交換できる病院でとても良い先生と思い決心した

Q.手術中に痛みはありましたか?

無いです

Q.手術後の見え方はいかがですか?

異常光視症による体調不良が無くなり安心したが、乱視が強くなった点と思ったより近方寄りにならなかった為スッキリと見えない

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

白内障による濁りが取れ、グレアハロも殆ど無く、運転は楽になったが乱視により仕事中は数字や字が見えづらい

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

眼鏡無しの生活がしたかったので多焦点レンズを選んだ

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

勧めるが多焦点は遠視眼には注意が必要と思った
先生が患者目線で細かくアドバイスを下さるから当院を選んだ