診療内容

白内障手術症例集
多焦点眼内レンズ

杉並区60代男性 白内障症例#79 強度近視+MIGS(緑内障手術)併用(波面制御型/焦点深度拡張型EDOF多焦点レンズ:Clareon Vivity:クラレオン・ビビティ)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.03(0.9p)
    近見:0.09(0.5)

    左眼
    遠見:0.03(1.2)
    近見:0.2 (1.2)

  • 術後

    右眼
    遠見:1.2(1.5)
    近見:1.2(n.c.)

    左眼
    遠見:1.5 (i.d.)
    近見:0.9p(1.2)

人間ドックで高眼圧を指摘され近医眼科受診したところ白内障を指摘され、手術相談にて紹介状なく2023年3月に初診されました。
矯正視力は0.9p/1.2と比較的良好でしたが、眼軸長は27.5mm程度の長眼軸眼であり、下図のように特別な要素はなく至極普通の右眼優位な核白内障をきたしており、屈折値は-10.0Dを超える最強度近視となっておりました。ご本人は多焦点レンズでの手術を検討されておりましたが、眼圧も21mmHg前後とやや高値であり、OCTでも軽度視神経線維層の菲薄化を認め緑内障リスクもありましたので、多焦点レンズの適応は視野検査の結果次第とし、初診時は手術日と視野検査の予約をしてお帰りになりました。

2回目の再診時の視野検査では、白内障によると思われる全体的な感度低下はあるものの(MD値-2.8程度)、現時点では明らかな緑内障性変化は認めませんでしたので、いわゆる前視野緑内障と言える状態でした。そこで今後の進行リスクのことを考え、1番安全なのは単焦点、どうしても多焦点ご希望であれば、ご提案されたクラレオン・パンオプティクスよりも光エネルギーロスがほとんどないクラレオンVivity(ビビティ)の方が安全とお伝えし、血液検査をして次回術前最後の診察まで迷っていただくこととしました。

術前最後の診察での聞き取りでは、「まもなく定年でPC距離などは必要なくなる。趣味のゴルフを重視したい。単焦点であれば遠方狙い希望で老眼鏡使用はOK。その場合、今見えている近距離も見えなくなることも了承。」とのことであり、術前アンケートでも、重視する距離は遠方(2m~)が1番、中間(50cm~1m)が2番、夜間運転機会も時折あると記載されていました。そこで、①遠方から中間の見え方重視、②夜間運転機会あり、③必要時の老眼鏡は許容、④緑内障リスクもありとのことから、ご相談の結果、クラレオンVivityであればご希望に沿う結果が得られる可能性が1番高い旨をご説明させていただき、より白内障の進行している非優位眼の右眼をやや近方-0.5D程度、優位眼の左眼を正視狙いというプランで手術することに同意いただきました。また④の緑内障リスクと眼圧高値であることを考慮して、低侵襲緑内障手術MIGS:MicroInvasive Gulaucoma Surgery)の1つである線維柱帯切開術眼内法線維柱帯という眼球内の水である房水の流水口の線維柱帯を切開して眼圧を下げる手技)を同時に行うこととしました。こちらのMIGSは白内障手術プラス2-3分で行うことができ、費用面では白内障手術代が半額になるため、条件が合う方にとって同時手術は身体的にも経済的にもメリットがあると言えます。

まずは非優位眼の右眼の手術ですが、やや散瞳不良で虹彩が不安定でしたが水晶体摘出は問題なく終了し、術中波面収差解析装置であるORAシステムの測定値と、術前の予測計算式結果を考慮して、術前予測式で-0.37~-0.46D程度を目標としたレンズを挿入し、MIGSである線維柱帯を切開して手術は無事終了しました。

翌日は緑内障手術による軽度前房出血は見られるものの裸眼視力は遠方0.9/近方1.0とほぼ予想通りであり、術4日目には遠方1.2p/近方0.9となり自覚屈折度は-0.375Dとなりました(他覚屈折度は-0.875D)。通常当院ではこのタイミングで、僚眼の目標屈折度をどの程度にするかご相談します。つまりこの方の場合は、左眼の目標を、右眼と比べてより近方同等より遠方から選択いただきます。決めかねてしまうことも多々ありますので、少なくとも「より近方はない」というような感じで希望をお伺いして複数のレンズ度数を発注します。もちろん術後の屈折変化はまだまだ続く可能性がありますので、最終的には右眼術後1週間となる左眼の手術日当日に早めにお越しいただいて、再度右眼の屈折度の変化を測定し視力検査をして、希望に変わりないか再確認してから左眼の手術を行います。昨今、白内障両眼同時手術の有用性が言われており、もちろん諸条件・諸事情によっては同時手術が大きなメリットとなる方々も当然おられるかと思いますので、当院でもご希望の方には同時手術を行います。しかしながら、私も50代ですので現実的に自分が手術を受けるときのことを考えると、あらゆる可能性を残す意味でも、やはり左右別々のstaged implantにしてもらいたいと現時点では思っています。

話がそれましたが、この方は右眼で比較的遠近とも見えているので、両眼加算効果を狙って左眼も同様の目標をご希望されるかなと考えておりましたが、予想に反して左眼はもっと遠方合わせにしてほしいとのご希望でした。そこで左眼の手術直前に、0.5Dだけ遠方にずらした状態を疑似体験していただくために、右眼-0.5Dの眼鏡を装用して検査したところ、遠方1.5/近方0.7と、やはり遠方視力は向上するものの近方視力は低下してしまいました。それでも「この見え方なら予定通り、より遠方を目標とした手術を希望したい」とのことでしたので、ご希望通り0.5D程度遠方に目標設定することとしました。

優位眼の左眼の手術に関してですが、適切な左右差をつけるために当然ORAシステムを使用し、術前の予測計算結果では+0.14Dとわずかに遠視になるレンズ度数を採用し、こちらもMIGSである眼内線維柱帯切開術を行い手術は問題なく終了しました。

術翌日は遠方1.2/近方0.3と全くVivityの近方加入部分が使用できていないような視力でしたが、術4日には遠方1.5/近方0.8pとほぼ術前のシュミレーションと同様の視力になり、リクエストどおりの良好な遠方視力に満足していただきました(他覚屈折度-0.125D)。

その後、術後1か月には、neural adptationいわゆる慣れというか学習効果のためか、裸眼視力は右眼:遠方1.2/近方1.2左眼:遠方1.5/近方0.9pと左右とも向上した上に、緑内障手術の効果もあり眼圧も12mmHg前後まで下降し(下図参照)、ほぼ眼鏡なしで生活できているとのことでした。しかしながら、Vivityは術後視力にやや変動がある印象があり、安定するまでに1-3ヶ月とやや長めに時間がかかる方がよく見られます。さらにその間、器械で測定する他覚屈折度は変化がないことから、やはり部位により度数の違うレンズは場合、レンズのどこを使用して見るかという眼の使い方の学習に時間がかかるのかも知れません。

Vivity中心部に加入が入っているため、瞳孔径が小さい方は周囲の遠方部分を十分に活用できない可能性もあり、小瞳孔の方の場合はやや遠視よりに目標屈折度を設定した方が遠方視力が確保されやすいとの話もあります。しかしながら、この方は瞳孔径3,25~3.46mmと十分大きいため、Vivityの機能がしっかり発揮されうる眼をされています。ですので右眼は期待通り術後遠方視力1.2としっかり見えておりましたが、それでもなお左眼はより遠方が見たいとのご希望があったことからも、患者様の感覚的なご希望はもちろん、Vivityの加入部分・加入度数を考慮した目標度数設定の必要性を感じた症例となりました。

2023.8.27

Q.手術前はどのような状態でしたか?

メガネをかけて0.7くらいであり、かなりボヤケて見える感じでした。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

人間ドックで眼圧が高いとの数値があり、また視力がかなり弱いので手術に踏み切りました。

Q.手術中に痛みはありましたか?

ほぼありませんでした。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

裸眼で1.2から1.5になり世界が変わりました。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

遠くに焦点を合わせましたので、近くは若干見づらいこともありますが、それほど苦になりません。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

多焦点です。できるだけ遠近に対応したかったため。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

大いに勧めます。