- 多焦点眼内レンズ
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三鷹市60代女性 白内障手術症例#75 強度近視(乱視用連続焦点型多焦点レンズ:テクニスシナジートーリック)術中波面収差解析装置:ORAシステムの問題点など
白内障手術相談にて前医より紹介状持参で初診され、適応あればパンオプティクスもしくはテクニスシナジーでの手術をご希望されていました。強度近視ではありましたが、白内障のタイプは核白内障でなく瞳孔領に及ぶ皮質混濁による視力障害であり、両眼とも矯正視力が0.6程度に低下しておりましたので、本人の希望があればいつ手術をしても良いと思われました。
また、常にドライアイ症状があり、ヒアルロン酸製剤などの点眼加療中でしたので、角膜高次収差が懸念されましたが、上図OPDscanⅢなどの角膜形状解析結果では、角膜乱視は非常に強いものの、下図の成分ごとにフーリエ変換した結果では、乱視用レンズ使用で治せる正乱視成分が主であり、高次収差は低値でしたので、ご希望あれば多焦点レンズも適応ありと診断しました。
ソフトコンタクトレンズ装用者であり、レンズ上から老眼鏡をされる生活に慣れているとのことで、単焦点なら遠方合わせをご希望されておりましたが、近方矯正視力も0.6まで低下しておりましたので、多焦点レンズでも術前よりも劣る点はほとんどないことをお伝えし、迷っていただくこととしました。
ご相談の結果、運転機会はなく、もともと強度近視であり近見のworking distanceが比較的近いため、近方焦点距離が近い乱視用テクニスシナジーでの手術に同意いただきました。まずは白内障の強い左眼の手術を予定され、お仕事の関係もあり右眼はその1ヶ月後としました。左右の手術の間が長いと、その間はいわゆるガチャ目(不同視)になり眼鏡も合わせることが困難となり生活しづらくなりますが、この方のようにコンタクトレンズ使用者は、反対眼にコンタクト装用することで通常問題なく生活できます。
軽度の角膜混濁もあり術中の視認性は若干不良でしたが、左眼の手術は問題なく終了しました。この方は強度近視でしたが眼軸長は25mm程度とそれほどでもないですが、角膜屈折度が45Dを超える(通常43D程度)ことにより強度近視になっておりました。このようにプロポーションの悪い眼は屈折誤差が生じやすいため、今回も術中波面収差解析装置:ORAシステムを使用してレンズ度数を決定しました。テクニスシナジーは目標屈折度0.00Dに絶対値で最も近いレンズ度数を使用することがメーカーより推奨されておりますので、この方の場合術前検査結果を信じると、下図左側の術前計算結果では目標度数+0.11Dの12.5Dのレンズが推奨レンズ度数となります。しかしながら術中測定結果では、事前にバックアップとして準備していた目標屈折度-0.55Dの13.5Dが推奨されました。測定結果を完全に測定結果を信じることはできませんし、通常角膜屈折度が大きい眼は近方寄りにズレることが多いため、-0.55D目標のレンズを選択することは悩ましいところでしたが、これまでの経験とORAシステムのクセを考慮して最終的に13.5Dのレンズを使用しました。
以前は術前に決めておいたレンズを使用するだけでしたが、術中計測を行うようになり術中にリアルタイムに選択・決定する事項が増えるため、どうしても手術時間は長くなってしまいますが、より精度の高い手術を行うことの方が重要と考えております。特に乱視用の方はレンズ度数だけでなく、乱視度数と乱視軸、そしてレンズ挿入後の乱視軸の微調整と確認のための再測定が必要になるため、場合によっては実際に手術している時間と計測時間がほぼ同等になってしまうようなこともあります。当院では全症例で術中波面収差解析を行っているため、1日の件数をしぼって対応しておりますので、申し訳ございませんが2023年3月15日現在で手術まで3か月ほどの待機期間を要しております。
左眼術後は懸念された屈折誤差や乱視軸ズレも生じず、遠方近方とも裸眼で1.2程度の良好な視力に大変喜んでいただけました。術前検査結果のみを信用していたとしたら、かなりの遠視になっていたと思われますので、本症例もORAシステムで助けられたことになります。その後、右眼の手術までの1ヶ月は予定通りコンタクトレンズ装用にて生活していただき、その間に左眼の不満点が生じたら右眼の手術時に調整予定としました。
右眼の術前診察での目標度数は、左眼と同様もしくはやや遠方をご希望されました。人工レンズは通常0.5D刻みでしか製造されていないため、小数点以下まで左右同じにすることはできません。ですので同じ度数を希望されても、最終的には0.5D未満の左右差は必ず生じます。患者様におかれましては、手術中という特別な環境下で、術中測定結果を聞いて、すぐに適切な判断をして選択してもらうというのは、かなり酷なことであり難しいと思われますので、当院では術中計測結果により遠方・近方どちら寄りのレンズを選択されるか、事前に心づもりしておいていただくこととしております。
右眼も左眼同様にORAシステムを使用しレンズ度数・乱視度数決定、乱視軸決定、乱視軸の微調整と確認のための再測定を行い、手術は問題なく終了しました。
術後はご希望通り測定屈折値として左眼よりも0.25D遠方よりとなり、期待通りの遠近とも1.2の裸眼視力になり、趣味の歌や観劇もお仕事の調理の距離も裸眼で全く問題なく良く見えることに大変満足していただけました。
このような症例提示をするとORAシステムは全能のような誤解を与えてしまうかもしれませんが、術前の検査結果を十分解析し、計測のクセというか特性を理解したうえで、参考として使用するツールであり、まだまだその結果を完全に信じることはできないと感じます。メーカーが名付けているように、あくまで"VERIFY"としての装置だと思います。ORAシステムは術前の眼軸長・角膜屈折度・術中眼球全収差度数・SF(サージャンファクター:レンズ・術者特有の定数)から、AIを用いて推奨使用レンズ度数を算出しています。患者様にもよりますが、この中で一番不安定=再現性の少ない項目は角膜屈折度と思われます。同一眼でも日によって涙の状態などでも値が異なりますが、1番問題なのは、測定機械によって測定範囲が異なることであると考えます。Barrett UniversalⅡをはじめとした現行の予測式は角膜中心2.5mmの値を用いていますが、ORAシステムに使用するべリオンは2.4mmであり、アルゴスはもっと狭い2.2mmであるため、通常べリオンやアルゴスでの測定値の方が、予測式に使用される中心2.5mmの角膜屈折度よりも強く測定される傾向があります。SFの調整により最終的にその差は打ち消されるのかも知れませんが、画一的な最適化のためには測定機器・測定範囲は統一するか、器機別に最適化して欲しいものです。
少々愚痴っぽくなくってしまいましたが、当院ではこれまでORAシステムでの屈折誤差の大きさに影響する因子を重回帰分析することで、眼軸長の他に、中心2.5mmと2.4mmでの角膜屈折度の差が大きいほどORAシステムでの屈折誤差が大きいとの結果を得ております。以降、その差を考慮した回帰式を使用して最適なレンズ度数を決定することで、少しでも屈折誤差が小さくなるよう努めております。
よく初診時から、レンズの種類や目標屈折度を決めておかないといけないと思われている患者様がおられますが、そのようなことは全くありません。特に両眼手術の方は、片眼手術後に物足りない点があれば、それを僚眼で補うこともできます。多焦点レンズであれば、まずはレンズのスペックが発揮されやすい正視(0D)狙いで臨んで良いと思いますし、単焦点であればまずは絶対に眼鏡なしで見たい距離を確実にカバーできる度数選択をされ、僚眼の度数は術眼の見え方と比較して選択することをお勧めします。偽調節に影響あるとされる角膜乱視や瞳孔径などの個々の条件は患者様ごとに異なりますので、レンズスペックや術後屈折度数以上もしくは以下の結果になることもあります。当院では手術日ギリギリまで患者様のご希望にフレキシブルに対応できるよう対策・準備をしておりますので、お気軽にご相談ください。
2023.03.15
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
遠くも近くもよく見えず、視界が白くモヤモヤしていた。
- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
ネットで色々調べ、満足している方が多いから。
- Q.手術中に痛みはありましたか?
全く無かった。
- Q.手術後の見え方はいかがですか?
遠くも近くも手元もよく見えるようになり大満足です。
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
趣味の歌のレッスン中に楽譜と先生の指揮を眼鏡やコンタクト無しで見えるようになった。
老人ホームで調理補助の仕事をしていますが、入居者さんのお顔や調理形態もよく見えて助かっている。- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
眼鏡やコンタクト無しで遠くも近くも見えるようになりたかったので。
- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
ネットで検索し説明が丁寧だった事と経験談がとても参考になり、また先生とスタッフの皆さんがとても感じよく信頼できたので。
長年苦労していた近視、乱視、白内障、老眼が全て良くなり、ものすごく感激しています。
痛みも恐怖も全く無いので、絶対にお勧めです。