診療内容

白内障手術症例集
単焦点眼内レンズ

世田谷区60代女性 白内障手術症例#69 強度近視 ( テクニスアイハンス トーリック : 中間距離合わせマイクロモノビジョン)

  • 術前

    右眼
    遠見:0.15(0.2)
    近見:0.1(0.15)

    左眼
    遠見:0.09(0.2)
    近見:0.1p(0.2p)

  • 術後

    右眼
    遠見:0.7p(1.5)
    近見:1.2(n.c.)

    左眼
    遠見:1.2p(1.5p)
    近見:0.7p(1.2)

1年前から見えづらいとのことで白内障手術相談にて初診の方です。
以前ご使用の眼鏡の度数と27.0mm程度の長眼軸であることから、もともと強度近視であることは明らかでしたが、屈折度数も正確にできないほどに前嚢線維化を伴う皮質混濁の強い白内障をきたしており、矯正視力0.2まで低下しておりました。

ご本人は「多焦点レンズは膜が張ったような見え方になる」とお考えで、細かい文字を見る時は老眼鏡・遠方しっかり見たい時は遠用眼鏡を使用してもかまわないので、適応あればテクニスアイハンス中間距離に合わせて欲しいとのご希望でした。具体的にはピアノの譜面家事料理の距離が見えるようにとのことでしたので、まず右眼は確実にその距離が確保できるように75cm~50cm程度を目標として手術を行うこととしました(-1.36D狙い)。スケジュールの関係で左眼の手術は右眼の1か月後の予定となりましたので、右眼術後に慣れた時点で中間~近見は十分よく見えると感じれば、左眼やや遠方に設定することもご提案させていただきました。

同席されたご主人は眼科ではありませんが総合病院勤務の部長医師であり、実際の術者しか知らないような手技的に難しい点などもご存じで、検査結果画像の細かいところなど、なかなか鋭い質問もされ緊張しましたが(汗)、メリット・デメリット・患者様特有の手術リスク含めた当方の説明に納得していただき、奥様のご希望のレンズ・目標度数選択に同意されました。

角膜形状解析検査では両眼とも2.0Dを超える直乱視であり、乱視用レンズを使用する必要がありましたが、当時、乱視用のテクニスアイハンストーリックはまもなく出荷停止になるだろうとの情報がありましたので、右眼術後にフレキシブルに対応できるように、左眼のレンズもより遠方・同様・近方と事前に複数注文し確保しておきました(2022年9月時点でも出荷停止中のままです)。

まず右眼の手術ですが、乱視軸設定べリオン、レンズの度数と残余乱視確認術中波面収差解析装置であるORA systemを使用して行いました。もともと角膜直乱視であり、テクニスアイハンスは単焦点の特性を持つため、過矯正により倒乱視化するリスクを回避するため、あえて0.5D程度直乱視を残すレンズ度数選択をさせていただきました。下図は乱視用レンズ挿入後のORA systemによる測定結果画面ですが、NRR:No Rotation Recommended、つまり乱視軸はピッタリ合っているためこれ以上回転調整する必要はないという意味であり、この時点で0.54Dの直乱視が残存していることになります(リアルタイム値であり、通常は術後の創傷治癒過程にて変化します)。手術自体は、前嚢線維化をきたしていたため前嚢切開時に注意を要しましたが、白内障自体の核硬度は軽度のため、超音波もそれほど使用せず無事に終えることができました。

右眼術後1か月の時点では、裸眼にて遠方0.7p/近方1.2と大幅に視力改善し予想以上に遠方視力が良好かつ、重要な楽譜・家事料理の距離はしっかり見え、スマホも裸眼で見えると大変満足頂きました。

そこで左眼に関してはご相談の結果「遠すぎない遠方より」をご希望ということでしたので、具体的に目標屈折度をどの程度にすれば満足いただけるか調べるため、右眼に遠方にずらすレンズを負荷して遠近視力を確認し、患者様特有の適切なずらし幅を設定し、裸眼遠方視力1.0を目標として遠方焦点距離を1.5m程度とさせていただきました(-0.66D狙い)。

左眼の手術も同様にべリオンとORA systemを使用し角膜直乱視をやや残すレンズ度数を選択し、術後は裸眼にて遠方1.2p/近方0.7pと目標通り遠方が良く見えることに満足していただきました。最適化の問題もありORA systemを使用しても術後屈折誤差を完全にゼロにすることはできませんが、適切な左右差をつける際には非常に心強いツールとなります。

結果として、理論値としての明視域は、右眼は1.6m~89cm:-0.625D、左眼は73cm~53cm:-1.375D、左右の屈折度数差は0.75Dと、いわゆるマイクロモノビジョンとなり、両眼視での裸眼視力は遠方・近方とも1.2と、眼鏡なしで生活できることに大変喜んでいただけました。

中間距離合わせをご希望の場合、角膜乱視(収差)や瞳孔径などによる偽調節といった不確定要素(個人差)も多いため、術後どの程度の遠近裸眼視力になるか予測が難しく、術者としてはなかなか患者様にこの程度見えますとお約束しづらいのが実状です。しかしながら、この方のように、まずは日常で優先したい焦点距離を確実に確保し、その結果から僚眼の適切なずらし幅を決めて目標度数設定を行うstaged implantを行うことで、両眼視での視機能を最大限に活かすことができ、最終的には術後満足度を高めることができると考えます。中間距離合わせを検討されている方にとって本症例が参考になれば幸いです。

2022.09.13

Q.手術前はどのような状態でしたか?

自転車に乗っていましたが、大変眩しく特に昼間の日射しで視界が真白になりました。

Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?

近くの眼科へ行きましたが説明があまり無く、ネットでテクニスアイハンスを知り先生の説明がとても分かり易く安心出来たため。

Q.手術中に痛みはありましたか?

チクッと小さい痛みはありました。

Q.手術後の見え方はいかがですか?

手元と遠方、スマホやTV、外出時も充分に見える様になりました。

Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?

ピアノの楽譜もハッキリ見え大満足です。

Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?

大変迷いましたが、眼鏡の様に事前に見え方が確認出来ないので中間をとってテクニスアイハンスにしました。

Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?

先生の説明と言葉のテンポがゆったりで心が落ち着き不安がなくなりました。
生活の質が向上し、眼が見えると人生変わります。