- 多焦点眼内レンズ
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杉並区60代女性 白内障手術症例#67 レーシック後片眼手術(左眼:3焦点型多焦点レンズ:クラレオン・パンオプティクス) テクニスシナジーとの違いと特徴
片眼の多焦点レンズでの手術相談にて初診の方です。
両眼ともレーシックを受けられており、さらに右眼は老眼治療としての角膜インレー手術(KAMRA Ring)も施行されている方ですが、今回は2~3年前から指摘されている左眼の白内障が進行してきたとのことで初診されました。
角膜インレーというのは、角膜実質内に小さいリング状の薄いフィルムを挿入して、ピンホール効果(目を細めるとよく見えるのと同様の原理)による焦点深度拡張を目的とした屈折矯正手術になります。通常は非優位眼のみに行い、デメリットとしては夜間暗く感じたり、リングが妨げになり眼底疾患が生じたときにすぐに十分な対応ができない点などがありますが、ICL同様に摘出できる点はメリットです。
この方の右眼は屈折度+1.0Dの遠視と-3.5Dの強い乱視でしたが、角膜インレーのおかげで自覚的には裸眼で遠方視力1.0・近方0.8見えておりましたので、ご希望通り左眼のみの手術と予定しました。
左眼は皮質混濁を主体とした白内障ですが、瞳孔縁に偽落屑物という白い縁取りがありました(下図矢印参照)。このような方は通常、散瞳不良・チン氏帯脆弱・緑内障を合併していることが多く、白内障手術の難易度=合併症リスクがUPしてしまいます。この方も予想通り散瞳が4.0mm程度と不良であり(通常の方は8.0mm程度開き、人工レンズの直径である6.0mm以上開く方が安全です)、場合によっては瞳孔拡張するための追加処置や、チン氏帯補強のためにカプセルテンションリング:CTRを挿入する可能性などお伝えさせていただきました。
レンズに関しては、レーシックや角膜インレーをされているだけあり見え方の質への意識が高く、眼鏡なしで生活できることを目標として多焦点レンズでの手術をご希望されました。
下図OPD-scanIIIの結果のように、レーシック後でしたが角膜球面収差も高次収差ともそれほど大きくない結果でしたので、多焦点レンズも適応ありと判断させていただきました。しかしながらレーシック後のため、術後屈折誤差のリスクはゼロにはできない旨もご説明し、総合的に1番確実性の高いと思われるクラレオン・パンオプティクス(PanOptix)での手術となりました。
手術に関しては、やはり散瞳不良でしたので安全のために小刻みに瞳孔縁切開を行うことで、下図のように十分な術野が確保でき、術後の縮瞳も妨げられることなく手術を終えることができました。
レンズ度数に関しては、EVO FormulaやBarett true K with TKなど7種類のレーシック後の眼内レンズ度数計算式の結果から3種類に度数をしぼって準備し、最終的には術中波面収差解析(ORAシステム)の結果をもとに使用レンズ度数を選択しました。
術中波面収差解析(ORAシステム)と事前の準備のおかげで、術後は懸念された屈折誤差も生じず、等価球面屈折度-0.375D、自覚的には-0.125Dとほぼ正視であり、裸眼にて遠方1.2/近方1.2pと良好な視力に大変満足していただけました。また、右眼は角膜インレーの見え方に慣れているため、いずれ手術を行う際はインレーは抜去せずに残したまま、つまり角膜の焦点深度拡張機能を温存したまま、単焦点レンズを用いた手術をお勧めさせていただきました。
患者様は良くテクニスシナジーとパンオプティクスで迷われ、その違いと特徴を聞かれる機会が多々ありますが、①スペック上では近方の焦点距離がテクニスシナジーは30~35cm、パンオプティクスは40cm、②ハログレア・スターバーストなどの異常光視症はテクニスシナジーよりもパンオプティクスの方が軽度、③遠方の光エネルギー配分はテクニスシナジーよりもパンオプティクスが多い(約50%)という3点をご説明しております。
これまではレンズのスペックに則り、パンオプティクスの近方視力は主に40cmで測定されておりましたが、テクニスシナジー登場により比較のため30cmでも測定するようになった結果、最近ではパンオプティクスの30cm視力もテクニスシナジーとほぼ同様との報告もされております。しかしながら当院で右眼にテクニスシナジー、左眼にパンオプティクスを入れられた方は、近方はテクニスシナジーの方が楽に見えると言われておりましたので、術前の屈折度が-3.0~-3.5D付近でもともと近方30cmが無理なく見えていた方などにはテクニスシナジー、一方、運転やゴルフなどのスポーツをするため質の良い遠方の見え方を優先されたい方はパンオプティクスの方が良いかも知れません。
また、レンズを選択・使用する術者側としては、テクニスシナジーは度数選択がシビア=難しいレンズですが、ピッタリ合えば広い明視域を確保できるレンズであり、一方パンオプティクスは、単焦点レンズを遠方合わせに使用する際とほぼ同様の感覚で度数選択できる、適応が広く扱いやすいレンズかと思います(あくまで個人の感想です)。
新しいレンズの登場に伴い様々な新しい知見も明らかになっております。もちろんスペックは1つの指標として非常に有用ですが、やはり実際にレンズが人間の眼の中に入った場合は、スペックだけでは計り知れない機能が発揮されたり、されなかったりするのだと思います。しかしながら、我々手術する側としては、不確実な部分を期待してレンズをお勧めすることはできませんので、その点をご了承の上、レンズの特徴とご自分の見え方の質の優先度を照らし合わせてレンズ選択されることをお勧めいたします。
2022.07.10
- Q.手術前はどのような状態でしたか?
部分的にかすみがある状態
そのためか視力も落ちている- Q.手術を受けようとしたきっかけは何ですか?
著しく視力が落ちたため
- Q.手術中に痛みはありましたか?
無い(ほとんど。チクッくらいはあったが許容範囲)
- Q.手術後の見え方はいかがですか?
かすみが取れ、特に手元は良く見える
- Q.日常生活(お仕事、運転、スポーツなど)で変わったことはありますか?
以前はリーディンググラスを時々使っていたが、使わなくて良いようになった
- Q.多焦点レンズと単焦点レンズのどちらを選ばれましたか?
多焦点レンズ
眼鏡なしでありたいため- Q.同じような症状で困っている患者さんがいるなら、手術を勧めますか?
なぜ当院を選びましたか?
ネット検索でHIT。いろいろ調べましたが、家に近いところにこのような白内障手術のしっかりした眼科があるとわかり来院しました。